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サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く/Glynis Ridley 矢野 真千子

4887217528サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く
Glynis Ridley 矢野 真千子
東洋書林 2009-02

by G-Tools


想像してみる。インターネットはおろかテレビもない、写真集もない時代。情報と言えば噂だけが風に乗って聞こえてくるような、幸運なら何かの折に絵を見ることができるかもしれない、でもその絵だって正確なものじゃなくて、絵師ですら想像で描いたものかもしれない。情報と言えばそういう不確かなものしかなかった時代、もしも、自分だったらサイと言う動物をどんな風に考えていたんだろう。

そんな時代、1740年のはじめに、本書の主人公とも言えるオランダ人船長であったヴァン・デル・メールと言う若い男が、たまたま人間によく慣れたサイを譲り受ける機会に遭遇しました。商才にあふれたヴァン・デル・メールはこのインドサイを連れ帰り、一儲けする事を思いつきます。
サイはヴァン・デル・メールとともに、ヨーロッパを巡業し、17年間の間、人々の常識を覆しながら、目と知識を楽しませた。そのサイの名前はクララと言う。メスのインドサイでした。
実際に存在したヴァン・デル・メールとクララの17年の足跡を描いてあるノンフィクションが本書だけど、実の所確かなことはあんまり分かってない。と言うのもヴァン・デル・メールは日記をつけていなかったため、詳細なことは、巡業先でまかれたチラシやポスター、物販商品(!)当時の画家たちが書いた絵や、周囲の人たちの記録文書などから掘り起こすしかなかったらしいから。
そういった手がかりから、クララの物語を見事に再現して見せた著者の手腕に、まず驚かされます。観ていたような臨場感、まさにその通りだったに違いないと思わせられる洞察力。部分によっては完全に著者の「想像」なのだけど、読むほどに説得させられ、納得してしまう。
ノンフィクションでありながら、物語であるのです。
クララとヴァン・デル・メールは、ヨーロッパの権力者たち・・フリードリヒやら、マリア・テレジアやら、ルイ15世といったセレブ中のセレブたちにも、クララを見せて歩いたらしく、そのつどに発揮される興行主としての才覚を披露しつつ巡業は大成功を収めていく様子がスリリングですらあります。
しかし、どこか不安が募る。ヴァン・デル・メールはクララをちゃんと可愛がったのか?ただの金づるとして捕らえていて、全然愛情を注いでいなかったのではないんだろうか?あまりにも商魂が逞しいので、愛情なんてない、金儲け主義の薄情な男だったのじゃないか?
・・・そんな杞憂が一気に晴れるラストは圧巻。
読み終えたときには、深く結びついていたに違いないクララとヴァン・デル・メールの情景が目に浮かび、その微笑ましさに思わず涙がこぼれてしまう。意外にも胸の温かくなる読後感を味わったのでした。

※ 時々、この時代に書かれた絵を参考にして、掘り起こしている記述があるんだけど、その絵が観たかった。画像もあるんだけど、もうちょっと沢山欲しかった。是非、それらの絵を挟んだものを再販して欲しいぐらいです。


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