決壊/平野啓一郎

410426007X決壊 上巻
平野 啓一郎
新潮社 2008-06-26

by G-Tools

4104260088決壊 下巻
平野 啓一郎
新潮社 2008-06-26

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もう何年も芥川賞作家の作品には興味がないわたしですが、今回本の紹介文にある「無差別殺人」とか「連続殺人」というあおり文句に引かれて読みました。
もちろん平野啓一郎というひとの作品は初めて読んだのですが、こう言う文体なんだという、まず確認。わたしには読みやすいとは言えませんでした。物語の枝葉にあたる部分でも、それぞれにものすごく詳細で濃密で深い記述やうんちく然とした部分が多々あり、全体としては無関係ではないだろうけど、読んでいるのが面倒になってしまいました。
そんな中でやっと見えてくるのは、とある一家の一見幸せに見える仮面の下の実の姿。ほころびそうでもなんとか保たれていた家族の姿が、ある殺人事件に巻き込まれることで破壊されてしまう姿が描かれています。
こちらはミステリー要素を期待して読んでいたのですが、この作品はその「事件」よりも登場人物たちの心理描写の巧みさを味わう小説でしょう。まず、主人公である崇の、常人には(というか、わたしには)理解しにくいまでの複雑な思考回路(たまに、うん、わかる!と思う部分もありました)。この作者の投影なのか、まったくのフィクションでこの「頭の中」を作ってるとすれば、やはり「さすが芥川賞作家」と言うことになるんでしょうか。何を考えているのかわからない不気味さを隠しもち、ストーリーに伏線を張ります。その他の主要登場人物たちの心理描写もとてもリアルで、その点はとても釣り込まれてしまいました。すべてが「決壊」へと向かっていく、その流れが丁寧に緻密に描かれていて、とても重い苦しい物語です。
特に「インターネット」に関しては、ものすごく興味がそそられる部分で、崇の弟の良介のHPをめぐる妻たちの心のやり場など、こうしてブログやHPを実際開設して、自分の文章を知らず知らず(知っているはずなのだけど)ワールドワイドに公開してしまっていることの恐ろしさや罪深さを突きつけられます。読書や映画の感想はともかく、個人的な日記は消してしまいたくなるような気持ちにさせられました。
先日このブログでもご紹介した「大人が知らないネットいじめの真実」あるいは「教室の悪魔」など、現代社会のなかの子どものケータイ依存への警告と言うものも含め、ネットが生活のなかに深く入り込んでいる事の恐ろしさも痛感させられるのです。
ちょっとネタバレで↓
ただね、殺された良介のHPに書き込みをしている「666」というHNの人物のことがはっきりと究明されていないのが消化不良ですね。誰なの?666って。最初から読者に「崇が怪しい」と思わせるように仕向けてある割りに、いきなり(でもないんだけど)666が登場しても、なんとなく唐突な感じがしましたけど。崇の勤め先である図書館で、二人は接触したのか?そのときに崇は666をそそのかしたのか??
666の一応その正体の説明はあるんだけど、ここまで長い小説ならば、崇や友哉とおなじバランスで666の人生にも触れて欲しかった。例によって、七面倒な記述部分は斜め読みしていたからわからないのかも知れませんが、結局「離脱者」ってなんだったのか。テロ行為という重大な犯罪に至る割りに、666のことはあまり書かれていないように感じました。わたしの読みが浅いかな?
しかし、やっぱり自分は第一子として崇に感情移入する部分はありました。物語自体は、簡単なものをわざと難解に小難しく描いてある感じですが、崇の気持ちだけを考えて読みすすめて見れば大いに共感して、切なく悲しく苦しくなるのです。(無罪なら)

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10:38 : [本・タイトル]か行トラックバック(1)  コメント(2)
おはようございます。久しぶりにおじゃましました。いゃ~「決壊」これ、私は未読ですけど、けこたんから昨日、読みにくくて途中で断念、面白くなかったんで、オークションで売ってくれと頼まれたんですよ。あまり興味のない作家さんですけど、芥川賞つながりで、吉田修一路線を狙ってるのかしらね。

2008/08/28(木) 08:42:33 | あさみ │ URL | [編集]

あ、あさみさん、いらっしゃい。
さっきあさみさんのところにコメントしてきたばかりですよ~♪

けこたんさん、挫折されたのですね。なんと、オークションで売ってくれって??そらまたケチョンケチョンですねぇ(笑)ちょっと安心したよ。巷の評判があんまりいいもので。。
これ、本当に面倒な小説でしたけど、でも、わたしは敢えて、全部理解するのを放棄したの。そうしないとあまりにも難しいんですもん。内容的に必要そうなところだけ、しっかりと読み、あとは斜め読み!
そしたら、それほどつまらなくもなかったですよ(笑)
たしかに吉田さんの「悪人」あたり思い出しました。
平野さんの「俺に書かせたらこんなもんだぞ」みたいな雰囲気がちょっと感じられたような気がしましたよ。

2008/08/28(木) 16:41:26 | short │ URL | [編集]

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2008/09/05(金) 13:29:31 | 本読み日記