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心にナイフをしのばせて/奥野修司

4163683607心にナイフをしのばせて
奥野 修司
文藝春秋 2006-08

by G-Tools



1969年、就学して間もない男子生徒が同級生に殺される。
無残にも首を切り落とされて…。
神戸の「酒鬼薔薇事件」よりも28年前に、よく似た事件が起きていたのだ。
本作は、その被害者側の姿を追ったルポルタージュ。

読めば、被害者側がどんなに苦しみながらその後の約30年を生きてこられたかが分かる。時には同じような文章が続く淡々とした描写、それはとりもなおさずその地獄から抜けられずに苦しんできたと言う事実を浮き彫りにする。

睡眠薬を常用し、殆どを寝て過ごしたお母さん、寡黙にもただひたすら堪えるだけのお父さん、殺伐とした生き地獄のような家庭で「わたしが死んだほうが良かったのだ」と思いながら生きてきた妹。(おかあさんは妹の世話すら放棄した)
その苦しみは一見徐々に薄れ、普通の社会生活ができるまでには回復するかに見える。だけど、決して、癒されてはいないのだ。
この一家に、その事件が及ぼした影響のあまりにも大きさに、読者は押し潰されそうなほど重みを感じます。

殆ど一冊、被害者家族の取材で費やされ、加害者のことはチラッとしか出てこないのがちょっと物足りない。

しかしここで明らかになった、加害者はと言うと…。
情報は少ないけど、すごいインパクトです。


少年法と言うものに守られ、厚生施設を出た後は姓も変え誰だか分からぬようにその後を生きて、なんと弁護士となり名誉ある暮らしをしていると言う。
被害者家族には、示談にて決められた700万円ほどの金額の、ほんの数パーセントの40万ほどの金額が支払われただけで、あとは知らん振りをする加害者家族。
お金の問題じゃない、もらっても手もつけたくない、と思う気持ちと、誠意を見せて謝罪してほしいという気持ちに苛まれる被害者家族。

そんな被害者のお母さんに、弁護士となった少年Aがぶつける言葉がすごい。

「お金が必要なんですか
少しぐらいだったら貸すよ
印鑑証明と実印を用意してくれ
50万円ぐらいなら準備できる
今は忙しいから一週間あとで…」

「謝ってください、一度も謝ってくれてない」
というお母さんに
「なんでおれが謝るんだ」
と言い放つ少年A。



言葉もない。
それが正しい司法のあり方でしょうか?
罪を償い、更正することは大事だし、すばらしいことだけど、苦しみからいつまでも(多分死ぬまで)逃れられない被害者側にたいして、これほど「のうのうと」と言う言葉が似合う生もないのではないかと思えてしまう。

犯罪加害者の更正にかける年間支出は466億円。
かたや被害者のための予算は11億円。

なんか間違ってる…と思わずにいられなかった。




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13:13 : [本・タイトル]か行トラックバック(0)  コメント(12)
まあ、なんという偶然。この本、昨日、図書館で予約したばかりです。
今朝も、殺人を時効になってから自首した人の話をやっていました。現在の法律では、それが存在する限り、遵守するしかないとのこと。なんか、理不尽なことが、法律の世界にも多いのですね。

2006/10/01(日) 14:22:05 | くまま │ URL | [編集]

shortさんの記事を読んでぜひ読んでみたいと
思いました。図書館で探してきます。

2006/10/01(日) 18:56:19 | ゆこりん │ URL | [編集]

少しずつだけど被害者重視の傾向へ傾きつつあるのは、こういう本のおかげもあるのでしょうね。
shortさんの記事を読んでも、あまりの理不尽さに悔しくなりますもの。

2006/10/02(月) 06:17:56 | ブラッド │ URL | [編集]

>くまま、おはようさんです♪
わたしが予約した時、うちの図書館(言い方が変だけど!)にはこの本なかったんですよ。隣の図書館から転送してもらったみたい。で、その時待ち人が1人ですぐに回って来たんだけど、今見たらうちの図書館にも入荷してて15人待ちですと!!!
読んだ人みんなで考えてみたい内容ですね。
また、読んだら語り合いましょ~!!

2006/10/02(月) 09:33:41 | short │ URL | [編集]

>ゆこりんさん~
ぜひとも読んでください!なんともやりきれないし割り切れないです。
ネタバレ多くてゴメンなさい。でも、本を読まない人にも、この少年Aが言ったことを知ってもらいたかったのです。
読まれたらまた語り合いましょう!

2006/10/02(月) 09:35:21 | short │ URL | [編集]

>ブラッドさん~
なんとも、気持ちの整理のつけにくい読後感です。
人を殺しておいて、その母親に向かって
「なんでおれが謝るんだ」はないでしょう?
ひたすら腹が立ちました。
わたしの拙レビューから、すこしでも理不尽さを感じていただけたら、ありがたいです。

2006/10/02(月) 09:43:12 | short │ URL | [編集]

加害者の家族の苦しむ話なのかと思ってましたよ、私。
私の中の常識では、被害者の家族はもちろんですが
加害者にだって家族がいるわけでその家族は本当に
生き地獄の日々を送るんだろうな・・・と事件の度に
思ったりするものですから。

そういう、常識はないんですね、こちらの加害者の場合は・・・
だから、そういう残忍な事をしてものうのうと生きていられるのね。
それにしても、弁護士って・・・
うわぁ、嫌悪感でいっぱいになっちゃった。

2006/10/02(月) 12:42:05 | メグ♪ │ URL | [編集]

>メグさん♪
乃南アサの「風門」「晩鐘」あたりがその辺の加害者と被害者の家族の心理を見事に描いていますが、実際はどうなんだろうと思いました。
生き地獄はひたすら被害者側でして、加害者は…
まぁその辺の取材がきっちり出来ていないのか、描写不足で物足りなかったです。
両側から切り込んでくれたらもっと違う見方も出来たんだろうけど…。
でもね、あまりにも、あまりにも酷いよ。加害者側。
そんなんで弁護士なんてするな!!どんな顔をして弁護なんてしとるんじゃ、ワレ!!
と、ののしりたい衝動に駆られますよ。
ぜひとも続編を、加害者側から見た続編を望みます!

2006/10/02(月) 20:23:03 | short │ URL | [編集]

ビェ~TBできなかったです。
(「ビェ~」で花のピュンピュン丸を思い出した…知ってるよね?)
さて本題。
最近のいじめ問題にも通じるこの本。
非常に読後感悪いです。
少年法の穴ですな…彼の現在の姿は。
怒りが収まらずアチコチを見て回ってます。
ノンフィクションだけに…収まらん!

2006/11/10(金) 21:39:04 | ユミ │ URL | [編集]

花のピュンピュン丸、知ってるけど見たことがないです…。
映らない局だったのかもしれない。
いや、わたしが若すぎるのか。←言うな!(笑)
ああ、いじめが発展して殺人に、と言うことでしたよね。
それをもう忘れてるわ。
なんせ、衝撃が大きくって。
やりきれなさと怒りだけが大きく残っています。
いまでも、そのAは弁護士でちゃんとやってるのかな~…。
なんか変だよね!

2006/11/11(土) 23:20:16 | short │ URL | [編集]

「じゃあ、あのまま虐められていれば満足なのか!」
この弁護士はそう言いたいんだと思う。この弁護士も謝ってほしいんだよ。

2006/11/27(月) 19:04:35 | moro │ URL | [編集]

mocoちゃん!
これ、読んだのかな?
そっかー。そうかもしれない。最初はいじめの被害者だったんだよね。
それを忘れてしまうほど、弁護士になって云々と言うのは衝撃だったもんだから、気がつかなかった・・・。
色々考えれば考えるほど胸がざらつく気がするよ。

2006/11/27(月) 20:16:41 | short │ URL | [編集]

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