【本】巨鯨の海/伊東 潤

4334928781巨鯨の海
伊東 潤
光文社 2013-04-18

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良い本を読んだ満足感!!


少し前に「ザ・コーヴ」という映画が世間の耳目を集めたけれど、その舞台となったのが、この作品の舞台でもある太地町である。本書は、鯨漁で生きる太地の人々を描いた作品。
彼らが捕鯨(と言うよりも鯨漁と言いたい)によって、生活の糧を得ている様子が、とても臨場感豊かに描かれている。鯨漁の方法や、そのむらの暮らしぶりなどもとても興味深かった。


確かに、賢く罪もない鯨を殺して食べるなんて・・・と、思わないでもない。
特に子持ちの親鯨は、とても愛情深くそれゆえに凶暴になり、必死で子どもを守ろうとする。そんな親子を狩らんでも・・と言う気持ちも沸いて来そうになったけれど、本書に描かれた人々の姿は、そんな通り一遍の赤の他人の生っちょろい同情を跳ね除けてしまう。

狩るものと狩られるもの、殺すものと殺されるもの、鯨と人との命のやり取りがここにある。
生活の糧として、鯨を捕っている彼らの姿は読者に「残酷だ」などと言わさない。彼らは鯨を夷様とあがめ「命をいただく」ことに、とても真摯に向き合っている。
人間だって、危険極まりない鯨漁で命を懸けている。
殺生を残酷と思わされるよりも、人間と鯨が真剣に「命」をかけた闘いに、厳粛な気持ちになった。

人間同士もまた、厳しい掟に縛られている。が、そんな中で厳しくも愛情豊かな人間ドラマが繰り広げられ、何度か泣けてしまった。連作短編と言う形により、鯨漁の隆盛から衰退へと転じる様、時代ごとで変わる鯨漁のあり方、様々な人間関係が描かれていて、これは短編集だからこそと思った。

滅多に居つくことのない、流れ者の旅刃刺(刃刺とは、鯨組のなかの役割の一つで、鯨に銛を打ち込む勢子船の頭のこと)を慕う地元の若者との物語「旅刃刺の仁吉」や、病弱な妻と母思いの息子を持つ刃刺一家の「恨み鯨」などは、涙に暮れてしまった。
太地の人々の中にも、鯨漁以外で生計を立てるものもいて、あるいは、耳が聞こえないものは当然船に乗れず、そんな子どもが大きくなって、やがて仲間同士も離れてしまうという切なさを描いた「物言わぬ海」、当然、恐ろしい事故に出会い怪我をすることもあるし、あるいは太地に生まれながらも、鯨漁を忌み嫌う人間も、中にはいて・・という「訣別の時」・・・
そして、圧巻だったのは「弥惣平の鐘」。太地の鯨漁のことを少しでも調べたら、必ず出てくるのが「大背美流れ」と言う言葉だ。その一部始終がここに再現されている・・・と言っても過言ではないほど、リアルに描いてある。この出来事により鯨組は壊滅的な被害を受けたらしい。
そもそも、当時(明治の初め)の鯨漁の不漁は、アメリカが日本近海で鯨を捕っていたからだという。時代の流れと言うにはあまりに残酷で哀しい出来事だと思う。
しかし、物悲しくも、大きな背美鯨と人間との戦いは迫力があった。

心からオススメしたい1冊です。



旅刃刺の仁吉
恨み鯨
物言わぬ海
比丘尼殺し
訣別の時
弥惣平の鐘
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