【本】ひそやかな花園/角田光代

4620107565ひそやかな花園
角田 光代
毎日新聞社 2010-07-24

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とある7人には共通の思い出がある。夏の一時期に行われた「キャンプ」だ。それは数年続き、見知らぬ同じ年頃の子どもたちと仲良くなり、子どもたちにとっては楽しい企画だった。でも、ある夏から突然なくなってしまう。幼いころの記憶ゆえに、成長するにつれいつしか忘れられ、人によっては実際に起きたことかどうかすら判然としない。
しかし、7人は何かに導かれるように、その集まりが何であったのか、彼らが誰であったのか、知っていくことになる。真実を知っていた者もいる。知ったばかりの者もいる。
さらに掘り起こされた真実は・・・・・。


角田さんって、面白くて読ませるけど、そこまで好きな作家じゃない・・・と思っていたんです。正直なところ。でも、先日読んだ「紙の月」がとてもよくて、そして本書を手にとって見たけど、これは・・・私が読んだ角田作品で「対岸の彼女」「紙の月」と並んでベスト3に入ると思いました。

(ネタバレあります。ご注意願います)





医療が進んで、こういう問題も起きてくる。以前ならあきらめるしかなかったことも、一つの方法が提示されれば、それがどんなに問題を含んでいてもすがってしまう。たとえば臓器移植だってそうだ。将来的には「私の中のあなた」みたいなことだって出てくるだろう。
本書ではそれは「誕生」に関わることだった。
同じ問題に直面した人は、ひょっとして読むのが辛い物語なのかもしれない。
そしてこの方法は、人が行う医療の範囲として正しいのかそうじゃないのか・・・人それぞれに思いがあると思う。
ここに描かれたのは、どうしてもどうしても子どもが欲しかった親たちの物語も含むのだけど、本当の主人公たちは、そうして生まれ出てきた子どもたち。
親だと信じていた人が親じゃなかった・・では誰が本当の親か・・じつはそれすら分からない。
それが分かったとき、いったい人はどう考えるのか。どんな感情にとらわれるのか?
7つの家庭、7組の親子、7組の夫婦の出産以前、出産以後、とてもていねいにリアルに描かれている。
そうして、真実に近づくにつれ、「生きることの意味」や「しあわせの条件」や「命の尊さ」などという、生きていくうえで出生の特殊云々に関係なく、誰もが持っている根本の問題が浮かび上がってきたように感じた。
印象的だったのは紗有美で、幼いころから同級生たちと(リアル)うまくいかなくて、夏のキャンプが唯一の自分の居場所だった。それが無くなってその後を寂しく、辛い思いで生きた。
それを紗有美はキャンプや母親のせいにする。じっとりと恨み、自分の人生がうまくいかないのは、めちゃくちゃにされたのは母親のせいだと思う。
そんな紗有美は言動からみんなに疎まれる。読者としても、この女だけは好感のひとかけらも持てない。
けれど物語の最後に紗有美は気づくのだ。
生きるということは、時にはもちろん恐ろしい思いをするかもしれないけれど、そこで幸せなことも起きるかもしれない。殻にこもっていれば怖い思いはしなくてもいい。けれど、幸せな出来事に出会うことも無い。
生まれてこなければ、辛い思いをしなくてもいい。でも生まれてきたから幸せな出来事に出会うこともある。
それは、この7人に限らない。誰にでも当てはまることなのだと思った。
一番いやな人物だと思った紗有美に、最後は一番共感した。
そのせいもあり、読後感の大変いい物語で、読後感で言うならば角田作品で一番良かったと思った。

・雄一郎はハルの「嘘」を見抜いていたと思うよね?
・たしかに、パートナーには注意が必要だろう。どこにきょうだいがいるか分からないよね・・・。

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2013/07/19(金) 15:17:02 |