【本】母の遺産ー新聞小説/水村美苗

母の遺産―新聞小説
母の遺産―新聞小説水村 美苗

中央公論新社 2012-03
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冒頭の場面ですでに主人公たち姉妹の母親は死んでいて、主人公と姉は遺産の話をしている。
物語は、母親の死ぬまでの時間を、主人公が子どものころからの時間を、父親が死ぬまでの時間を、ひいては祖母の生きた時間を行きつ戻りつしながら展開してゆく。
全編にあふれるのは、主人公たちが母親に感じている確執。「早く死んで欲しい」「いつ死んでくれるの?」と言う強烈な願い。
自由奔放に生きた母親に操られた人生。早く母親から自由になりたい、早く・・と願って止まない主人公。
おまけに、母の最後の入院と夫の浮気発覚(何度目かの)が重なり、二重に打ちのめされることになる。
老いて「別物」になっていく母親を見ているのは辛いものだ。
その「別物」の母親に振り回され・・・そこへ夫の浮気という重荷が重なり、どうしようもない徒労感と倦怠感がこれでもか!とイヤほど描かれている。私はその毒気に当てられながら、一緒に徒労感と倦怠感を味わって、もうぐったり・・・。
ところが、それが不思議とイヤじゃなかったのだ。
あまりにもリアルな描写に、ただひたすら物語に釣り込まれて、どっぷりはまり込んでしまった。
母親の死を願うなんて、一見「親不孝」なこと。でも、その気持ちは共感を持ってひしひしと伝わってきた。
特に母親の死をはっきりと願うシーンがある。
父親が入院中に、あまりにも能天気な身勝手なことを言う母親に、主人公は呆れ、そして猛烈な怒りを感じ、「死んで欲しい」と願うのだ。
この父親の入院中のエピソードがまた物悲しい。
大人数の病室で、座るためのイスさえもなく、体を起こしているときは、ベッドに腰掛けるしかないので、その部分がついには沈み込んでしまっていると言う。母親に「捨てられて」しまった父親のあまりにも哀れな姿に、私まで気持ちが沈み、胸が塞がれてしまったのだ。
この父親もまた、死の間際には「別物」になってしまう。みんなそうなのだ。別物になって、それから死んでいくのだろう。
主人公はこの父親の死をも願う。それはひたすら父親の為に。これ以上辛い姿で生きるよりも、死んだほうが父親のためだから・・・。
母親に対しても、憎しみからただ死を願うのでもない。
親としてやっぱり愛情はあって、辛い思いをさせたくなかったり、無意味な延命をしたくなかったり、母親の意思を尊重して「死を願う」気持ちもあり・・・母と娘の確執にまみれた「死」は、とても一言では言い表せない。
哀れにも思い、涙もわき、美味しいものを食べさせたいとも願い、そんな複雑な感情が丁寧にじっくりと描かれていて、とても読み応えがあった。
また、母を「そんな風」に育てた両親、主人公の祖母の青春から母としての人生も語られていて、それがまた一人の女性の人生として迫真に満ちていた。祖母は「金色夜叉」の主人公、お宮さんだと信じた人生を送ったと言うのだ。
「新聞小説」によって、ある意味では「開眼」された人生を生きたのだと。
「新聞小説」「金色夜叉」がなければ、自分たちは生まれていない・・と、主人公は思う。
良くも悪くも、小説が持つ影響力・・というか、大きなパワーを感じた。
著者の作品は初めて読んだのだけど、重厚な文体でありながら読みやすく、感情なども細やかに書き込んであって、とても読み応えがあった。
主人公が最後に到達する思い(夫へのメールは胸が詰まった)や、姉夫婦の決断も含め、主人公に与えられた境遇などによって、読後感もなかなか良かった。
しみじみとした感動を得られて大満足の一冊だった。オススメ!!




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