【本】解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯/ウェンディ・ムーア

4309204767解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯
ウェンディ ムーア Wendy Moore
河出書房新社 2007-04

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皆川博子作「開かせていただき光栄です」が面白かったので、関連本として紹介された(皆川氏も参考文献に挙げていた)本書を読んだ。
「開かせて・・」のダニエル先生のモデルとなった人物の伝記です。

面白い!
偉人である!!ハンター先生、どんだけパワフルなんだ!と驚愕する。
この人がやったことは、私はここではもうご紹介しないけど、外科的分野がすごく低く見られていて、イボを切ったりするのは床屋さんの仕事だったと言う時代に、自ら進んで死体を切って開いてその目で人体(他の動物も)のからくりを臨床研究していった人物だ。

「開かせていただき光栄です」に登場するダニエル先生は、口を開けば「もっと死体を!!(解剖するための)」と言う。
口癖のように。
それが作中とてもユーモラスなのだけど、本物はもっとすごかった。
解剖するのも寝る間を惜しんで。勤勉とか言うレベルじゃない。
それに、死体蒐集にかける意気込みたるや半端じゃない。
ハンター先生の生前も、後年には知識人たちの間では自分を死後解剖してもらうのが「流行」のようにさえなったらしいが、一般人には解剖して切り開かれずたずたにされると言うのは、とんでもない恐怖だったよう。
そんな中で墓を暴き、死体を買いあさる。他の解剖医たちも同じように死体を欲しがり、需要と供給のバランスが崩れて、死体取引はとんでもない様相を呈したとのこと。
イギリスだけの話じゃなく、アメリカにも飛び火した死体争奪戦。
反対派の市民との確執もすごかったらしく、暴動まで引き起こしたとか!!
そう言う細かなエピソードの一つ一つがとても魅力的だった。


この人は「近代外科学の父」と呼ばれているらしい。
ダーヴィンが「種の起源」を書いたときよりも70年も前に、動物の進化論を発見していた。
当時はキリスト教の影響から、万物は神が創ったと信じられていたらしい。
だから、今ある生物はその形のまま、何千年かまえに創られたと言われていて、その意見に異議を唱えると言うことは、神に対する背信行為として、常識では考えられない危険思想だったんだそう。
でも、どんな動物の死体も解剖して骨格から調べては、ハンター先生は自分で、進化論に気づく。
今でもそうなんだけど、「定説」を打ち破るということはとても難しいことだと思う。
まず、そのことに疑問を抱かなければならない。
ハンター先生は子どものころから、何に対してもまず疑問を抱き、自分の目と手で疑問を解いていったそうだ。
本を読むのが嫌いだったから、既成の事実にとらわれず、自分なりに事実を追求することが出来たとのこと。
私などは、なんでもかんでも読んだこと、言われたことをそのまま信じ込んでしまう。
Aは白、Bは黒と言われたらそれを信じるし、今のは間違いでして事実は逆です・・と言われたらまたそれを信じてしまう。
私のような人間とは正反対の人物だ。
特にそれが宗教がらみで「疑問を持つこと」「違う説を唱えること」が異端視されてしまう時代には、もっと困難だったろう。
ハンターの発見はさまざま、とても現代医学に貢献しているらしい。
実はこの本を読んでいるとき、わざとじゃないのだけど、夫が扁桃腺の切除手術をした。
ハンターの頃はまだ、細菌が発見されていなかったので、手術などもすべて滅菌しないで行われたらしい。
さすがのジョンハンターもまだそこまで発見してなかったみたい。
だから手術=感染症で、亡くなる人が多かったんだとか。
今の手術は当時から見たら格段の進歩で、感染症などはよほどのことがなければないだろう。
現代医学は、ジョン・ハンターのような先人達の苦労や努力の末に成り立っていて、我らは大いにその益を享受しているんだなぁとしみじみ実感した。
この人が残した骨格や標本は、今でもロンドンにあるハンテリアン博物館に展示されていて、一般人も見ることが出来るのだそう。240センチ近くの巨人、チャールズ・バーンの骨とか・・・ぜひとも見てみたい!!
近くにはホラーファンにはたまらないんじゃないかと思われるロンドン・ダンジョンなんていうのもある。
この界隈、いつか旅行してみたい!!と、切に思ったしだいです。

ところで、このハンター先生の偉業を陳列してあるハンテリアン博物館は、ハンター先生の最後の弟子ウィリアム・クリフトによって献身的に保存されてきたらしい。
ハンター先生はとっても魅力的な人物で生徒達にとても慕われたらしいけど、反面、気短で激昂しやすく、そのために敵もおおかったようだ。死後、ハンターを裏切ったのが、身内である義弟のエヴァラート・ホームなる人物。
身内にこんな敵がいて、ハンター先生の偉業は下手をしたら今のように残らなかった可能性もあったのではないか。それを残したクリフトはエライ!
彼はハンターの弟子になっていた期間はたった1年半。
にもかかわらず、深くハンターを理解し、手助けした(もちろん勉強も教えてもらい)。
クリフトはハンター先生に出会ったことを良かったと思ってると思うけど、ハンターにとってもこの弟子との出会いは僥倖だったのじゃないだろうか。
最後の弟子がこんな献身的な聡明な人物で、本当によかった。
最後にその救いがホッとさせてくれた。

そして、これだけの偉大な業績を上げた人物の・・しかもずいぶん昔の人なのに、ここまで取材してここまで明らかにしたなんて、この著者のライター魂に敬服、脱帽、ひれ伏すのみです。
ハンター先生、クリフト助手、そしてウェンディ ムーアさん、ブラヴォー!!ハラショー!!です。


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16:14 : [本・タイトル]か行トラックバック(0)  コメント(2)
こんにちは。
shortさんの感想を読ませてもらって、益々この本がよみたくなってます。図書館に今度行ったら即借りますねー!!(わくわく)

2011/09/25(日) 12:31:33 | ワルツ │ URL | [編集]

ワルツさん(*^_^*)
こちらにもお越しくださったんですね!
どうもありがとうございます!
肝心の「ダニエル先生のモデルとなった人物」と言う説明を入れるのを忘れてましたので
追記しました(^_^;)
なかなか上手にご紹介できませんが、ちょっとでも面白さが伝わったらなぁ・・
と思っています。
ぜひともお手にとってごらんくださいね(*^_^*)

2011/09/27(火) 12:42:30 | short │ URL | [編集]

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