【本】優しいおとな/桐野夏生

4120041506優しいおとな
桐野 夏生
中央公論新社 2010-09

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家族をもたず、信じることを知らない少年イオンの孤独な魂はどこへ行くのか―。(「BOOK」データベースより)

舞台は近未来でしょうか?
貧富の格差がかなり大きくなっているようで、公園にはホームレスたちがあふれ、炊き出しにも大勢が列を成して集まる。そしてアンダーグラウンドと呼ばれる地下を牛耳る一派も暗躍して、東京は魔の街になってしまっているようです。
イオンはそんな東京の片隅で生きている15歳ぐらいのホームレスの少年。
どこで生まれて、親は誰なのかも知らない。
世の中には「優しいおとな」と「優しくないおとな」と、「どっちつかずのおとな」の3種類がいる・・・と教えてくれたのは、鉄と銅という、ふたごの兄弟。
幼い頃に一緒に育った鉄と銅を探して地下にもぐったイオンでしたが、生気を奪われるように闇に飲まれていく。
イオンは鉄と銅に会えるのか・・・。

最初は、イオンの心理描写に、いつものような著者独特の臨場感が感じられず、どことなく違和感を感じてしまっていました。いったいイオンは何がしたいのか?どうなりたいと思っているのかとか・・具体的なことが分からず、ただ命さえも危ういほどのホームレス中学生みたいな生活が延々と描かれているだけ・・。
モガミという、イオンに唯一親身に接する大人が登場しますが、イオンはモガミにも心を開かないところなどもイライラさせられました。そしてモガミの正体はナンだろう?やっぱり少しの引っ掛かりがあってどうにも読みにくさを感じていました。
近未来と言う設定(それとも、パラレルワールドのような、別の日本が舞台なのか?)もなんだかしっくり来ないなぁ・・・ホームレス同士の勢力争いもイマイチのめり込めないな~・・・などなど、結構不満気に読んでいましたが、イオンがアンダーグラウンドに潜ってから段々と面白くなってきた!
桐野さんといえば、破滅に向かう人生(だけどそこに爽快感がある)を描かせたら右に出るものなし。
今回も、イオンが破滅に向かって進んで行きます。
実は、そこにいつものような爽快感はなかったけど、代わりに、イオンを心配する気持ちが初めて芽生えてきて、物語に共感し始めたような気がしました。
登場した最初から、イオンはすでに底辺の生活を送っていたのに、そのまだ下にある暮らし。人はどこまで落ちぶれるのか・・これでもか、これでもかと言う、たった約15歳の少年に課せられた、過酷な人生。
ひとはどん底まで落ちたときに、何かをつかむのかもしれません。
読後感は、いつもの桐野作品とは違う味わいがあります。桐野さんらしくないとも言えるかも。
でも、私は好き。
読み始めとは打って変わって、心に残る物語となりました。



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2010/10/29(金) 10:08:37 | 映画と読書とタバコは止めないぞ!と思ってましたが…死にそうになったので禁煙か?

「優しいおとな」と「優しくないおとな」と「どっちつかずのおとな」。それを教えてくれたのは、鉄と銅の双子だった。 まずは来訪記念にどうかひとつ!  人気blogランキング【あらすじ】近未来の渋谷。持てる者はさらに富み、持たざる者は街をさまよう。希望なき世界に...

2010/12/24(金) 15:01:28 | じゅずじの旦那