【本】死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの/堀川 惠子

4535517223死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの
堀川 惠子
日本評論社 2009-11-24

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NHKのETV特集「死刑囚永山則夫 獄中28年間の対話」というのをこの春先、多分再放送だったと思うけど、見ました。それがきっかけであり、この作品が講談社ノンフィクション賞を受賞したというのもあり、手に取りました。(先に読んだ「トレイシー」も同時受賞しています)
読むうちに、ETV特集と内容がそっくりなので「あれ?」と思って奥付を確認すると、本の著書はその番組のプロデューサーの方のようです。
永山則夫の肉声の録音されたカセットテープ、永山則夫が獄中に読んだ膨大な書籍や、書き残した膨大なノートや手紙の類、1970年に『裸の十九才』という映画を監督した新藤兼人さんの証言、そして、今まで取材に応じたことがなかった永山則夫の元妻である和美さんの証言など・・・
テレビではたくさん印象的なことがあって見入ってしまいましたが、本書はそれを一冊にまとめてあり、タイトルのように永山則夫の刑をとおして「永山基準」とは・・・「死刑の基準とは・・」という問題提起を、より深く追求しているようでした。
裁判員制度が始まる前に、著者は「死刑の基準」というものに踏み込みたかったようです。
山口県の光市母子殺人事件の死刑判決に衆人が拍手喝采したという光景を見て、著者は絶句します。法律が個人の復讐の手立てであってはならない、という著者は長年ヒロシマの取材を続けてきたので、その地元広島地裁で「やられたからやりかえせ」とも取れる衆人の拍手喝采に驚いたようです。
そこでも使われた死刑の基準、「永山基準」。。それが何なのか、じっくり考えさせられる本でとても読み応えがありました。
まぁ考えさせられたからと言って、私には死刑の基準もわからないし、そもそも廃止か存置かすらもはっきり決めかねてしまうヘタレなのです。。
死刑に相当する罪であると思っても、その後の更正の様子を知らされれば「なせこの人が死刑にならねばならないのか」と思うこともあり、またそこまで更正したのは「死刑」という現実を突きつけられたからで、これが「無期」だとしたらここまで更正してなかったかもしれないし・・などなど・・揺れまくります。
本来は、やっぱり死刑は廃止するべきだと思っているのですが、でも、遺族の方々の気持ちを前にすればそんなことはあっさりと言えないし。
そんな私が何をか言わんや・・・です。
でも、本書の中で、永山則夫に無期懲役という判決を出した二審の船田三夫裁判官の「法は全ての被告人の前において平等でなければならない、裁く人によってその生死が左右されてはならない。死刑宣告は裁判官全員一致の意見によるべきである」という部分に、納得しました。
それでは実質的に「死刑は廃止」というのと同じであるというのが、結局死刑にした三審の意見だったのですが、うーん・・・難しいけど、私は船田裁判官の意見に傾きました。
裁判員制度が始まり、刑の決定は多数決のようですね。選ばれた市民を含めて9人の中で、5人が「死刑」と言えばたとえ4人が「無期」と判決を下そうとしても死刑になってしまうのは、やっぱりどこか変だと思うのです。
でも、自分が被害者の立場に立ったとき、同じことが言えるかどうか全く自信がありませんけれど・・・。

それから、本書では永山則夫と元妻の和美さんの結婚したときから離婚したときの話がとても印象的でした。
永山も和美さんも、母親と社会に捨てられ切り捨てられた者同士として、決して他者にはわからないところで通じるところもあり、結ばれていったのです。
永山もかなり辛い過去があり涙なくしてその部分は読めませんが、和美さんもまた辛い過去を持っています。
沖縄で、フィリピン人との間に生まれた和美さんには、戸籍がありませんでした。お母さんが出生届を出さなかったからです。働く母親の代わりに、和美さんはおばあさんに負ぶわれて育てられます。
しかし、母親がアメリカ人男性と結婚し、アメリカに行くときに、戸籍がないためにパスポートも取れない。
なんと、お母さんはそんな和美さんを置いていきます。
和美さんは戸籍がないから高校にも行けないと言う現実に絶望します。
特にテレビの映像が印象的なのですが「国際福祉沖縄事務所」と言う看板を見つけて、そこに飛び込んだとき、事務所の女性に、支援金がもらえると言われるのですが「白人の子は10ドル、黒人の子は5ドル、フィリピン人の子は3ドルよ」と言われて「いらない!」と事務所を飛び出したと言います。
それを語るときの和美さんは泣いておられました。
高価なので買えずに万引きした戸籍の専門書を読みながら、当時の少女であった和美さんは泣けてきて「今に見ていろ」と強く思ったそうです。
見ていろ!というのは、殺すって言うことですよ。
と。このときに永山のように拳銃を持っていれば間違いなく引き金を引いたと。
でも、それを引き止めたのはおばあさんの存在でした。おばあさんに愛情深く育てられた和美さんは、そのおばあさんを思い出し、心を静めたそうです。
後に戸籍が出来て、家族のいるアメリカに発ったときも、見送ってくれたおばあさんが「ひとさまに後ろ指をさされるようなことはしなさんな、そしたら私があんたを負ぶった意味がないから」と言うことを言われたそうです。
永山と同じ地点にいたかもしれない和美さんに、こんなおばあさんがいて、そして永山には誰もいなかった。
永山のお母さんへの憎しみと相反する愛情。
なんと、永山の写真はお母さんにそっくりなのがまた切ないです。
和美さんとの出会いによって代わって行く永山の姿が印象的です。
「私と生きて」と言う和美さん。ずっと死刑でいいんだと思ってきた「思想のために死ぬ」と言ってきた永山に生きる希望がわいてくるのですが、一審「死刑」、二審「無期懲役」、三審「死刑」と翻弄された永山は
「生きろと言ったのはあなたたちだ。いざ生きるつもりになったら殺すのか」と言うことを弁護士に言ったそうです。

当時の弁護士や裁判官や検事の言葉も書かれているのですが、事件から何年経っても、関係者たちに深い思いを残している人なのだなぁと感じました。
もう少し、私も関連書籍を読んでみたく感じました。

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11:28 : [本・タイトル]さ行トラックバック(0)  コメント(2)
永山について、「気の毒な子供時代があった」ぐらいしか知りませんでした。私も、死刑については揺れまくっています。賛成というときは、やはり、被害者家族の立場になって感情で発言しているようにも思えるし。難しいですねえ。

2010/10/10(日) 10:00:37 | くまま │ URL | [編集]

おねいさま、コメントありがとうございます(*^_^*)
いま、お借りしている「裁判百年史」にも登場していますね。
こっちの本よりもなお、中立的で冷静な感じで、三審差し戻し以降の展開が、こういう本よりも
永山則夫のその後をちゃんと描いてある感じでした。
死刑、難しいですね。
私はやめてほしいけど・・・。
でも、再犯のこともありますし・・・。
うーん・・・・・難しいですよね・・!!

2010/10/10(日) 20:39:37 | short │ URL | [編集]

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