【本】昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たち

4163727809昭和十七年の夏 幻の甲子園―戦時下の球児たち
早坂 隆
文藝春秋 2010-07

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朝日新聞社主催の夏の全国高校野球選手権大会、いわゆる「夏の高校野球」は、今年で92回目ですが、戦争中は中断されていました。昭和16年~20年までの4年間は大会は開かれませんでした。
がしかし、実は昭和17年には、甲子園大会が開催されています。
朝日新聞主催ではなく、国(文部省)の主催だったため、92回の中にはカウントされていません。幻の甲子園と呼ばれるのはそのためです。

本書はその「幻の甲子園」の当時選手だった人たちからのインタビューにより、当時の選手たちの姿や世情とともに、「幻の甲子園」大会を再現しているのです。


とにかく、冒頭の「序章」から泣けてくるようなエピソード満載でして・・。

物資も不足気味、練習時のボールはつくろったり糸を巻き巻きしては使っていたとか・・17年の大会は朝日新聞主催ではないので、宿泊費などの金銭的援助もなく、旅費の捻出に苦労したとか何とか、もう聞くも涙みたいな話が続くんですけど、ともかく球児たちは野球がやりたい一心。
どこが主催でも関係なかったといいます。
野球が出来る、甲子園が開催される、その喜びが・・・今の時代からは想像もつかない大きな喜びであり希望であったろうと言うことが、伝わってきます。

でも、この年は国が「戦意高揚」を目的として開催されたため、おかしなルールがたくさんありました。
選手のことは、選手ではなく「選士」と呼んだ・・・とか、打者はデッドボールを恐れて、投手の球をよけてはダメだったらしいです。突撃精神に反することはNG。
同じ意味で、よほどの大怪我でなければ、控えの選手との交替も許されなかったそうです。選手は最後まで死力を尽くして闘えということで・・。
そのため、交替したくても出来ず泣きながら投げていた投手もいたという・・。
変な年齢制限もあったそうで(旧制中学なので、13歳から19歳までの幅広い年齢差があったようです)そのため出場できなかった選手もいて、そういうエピソードのひとつひとつに胸を打たれました。

戦争中は誰もが当然のように、「学校を出たら戦争に行く」「戦争で鬼畜米英をたおす」と思っていたそうです。だからこそ、大好きな野球を「今しか出来ない」のだから、「懸命に」やった。。
そして、昭和16年の甲子園の中止は残念なことだった。
そしてなお、昭和17年の甲子園の開催は喜ばしかった。
その選手たちの気持ち。
後の学徒動員の覚悟、「これが最後」っていう気持ちにも泣かされましたが、徴兵されてる間にも「野球がやりたいなぁ」と思ったとか言う話とか、実際に戦死してしまった球児たちの話などはもう、涙なくして読めなかったです。
戦争と野球が同居する時代・・私には想像も付かないけれど、確かにこういう時代があって、それでも人は野球をして恋もして生きたと思うと、言葉がありませんでした。

世間的にも「この非常時に野球なんかやって!」と悪く言われることもあったけれど、大抵の人たちには野球は人気だったらしいです。
何もかも制限され、統制された不自由な世の中で、野球が人々にもたらした活気と言うか、元気と言うか、希望みたいなのが・・・今とはまた別の感動と言うか、みんなに野球は「何か」を与えたんだろうな~と思うと、胸が詰まります。
収容所から来た遺書」を読んだときも、人が生きていくうえで「娯楽」がどんなに大切かということを感じたけど、今回も思いました。


平和な時代に生きて、野球でも何でも、思う存分やろうと思ってできると言うのはとても幸せなことだな~と、改めて思いました。陳腐な言い方かもしれませんが・・。
そして、この人たちのこと、この時代のことは語り継がれて行かねばならないのだとも・・。



日本における野球の歴史や、高校野球の歴史、甲子園の土を詰め帰る習慣の始まりとか、まぁ多分野球ファンのひとなら知ってる話かもしれないけど、そう言うのも色々書かれていて興味深いです。
後年プロで活躍した有名選手や監督の名前もあり、私はそこまで知らないんですけどそれでも感慨深いです。
島清一って選手をご存知ですか?
この17年の大会には出場してないけど、昭和14年の大会で5試合で完封勝利、その中でも準決勝と決勝の2試合連続でノーヒットノーランという偉業を達成した人物だそうです。江川卓や松坂大輔なんか目じゃない大人気だったそうです。(そんな書き方はしてないけど)
そういう逸話も感動しながら読んでいます。
本書の中で印象的なのは、平安中学の富樫淳。。。。なんとも言葉がありません。あとは、台北中学の菊池兄弟。広島商業の澤村さん、年齢制限に引っかかり出場できなかった選手たちなどなど・・・。

戦争中は学生の体育大会みたいなのも戦争運動っていうのがあって「手榴弾投擲突撃」とか「土嚢運搬縦走」とか・・・そう言う話も興味深かったです。
実際に甲子園の開催中に時代を超えて過去の甲子園を観たようで、とても感慨深かったです。
読んでよかった。おススメです。
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20:55 : [本・タイトル]さ行トラックバック(0)  コメント(0)

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