2010'09.16
夜の記憶 (文春文庫) トマス・H. クック Thomas H. Cook 文藝春秋 2000-05 by G-Tools |
同シリーズも4作品目。ちょっと慣れてきたか?わりと読みやすく感じました。
今回は、作家が主人公。
終戦の翌年に、平和で美しい田園リヴァーウッドで起きた少女の殺人事件。その未解決事件に対して、作家ならではの想像力を駆使して、この事件の結末を考えて欲しい・・・と、その被害少女の親友であった女性から依頼を受けたグレーヴス。
同じくリヴァーウッドに滞在中の脚本家のエレナーと一緒に、その事件の真相に迫ります。
なんと言っても相変わらず、昔の事件をさぐりますね。やっぱり私は「そんな大昔のこと覚えてるもんか!」と思ってしまうのです。それに今回は、主人公が作家だから、自分の想像力で事件を構成していくので、想像なんて・・!私は「真実」「事実」が知りたいのに・・・と思いながら読んでおりました。
でも、エレナーが登場してから、当時の資料を元にして着実に実直に、事件の「真実」に迫っていく展開に。この現実的な作業は女性ならではなのか、その辺りからぐっと面白く感じました。
結局結末としては、えらく方向の違うところから事実が見えてきて、やられた~!と思わずにいられません。もちろん布石はあったので、唐突な感じはなかったですが・・。そう来るのか・・!という衝撃。意外でもあり重過ぎる結末にうなってしまいました。
しかし、本書では実はもうひとつの物語があるのです。作家のグレーヴス自身のトラウマになっている事件です。グレーヴスは自身が、過去13歳のとき、目の前で姉を惨殺されると言うむごい事件に巻き込まれているのです。そのトラウマから逃れられず、それを作品に投影して人生を送っている。家庭も持たず楽しみも持たず、ひたすら書くことが生きている証とばかりに・・。
登場するのは、極悪人のケスラー。そして矮小な手先のサイクス。それを追うのが刑事スロヴァック。どのシリーズにもこの3人が登場するのですが、ケスラーとサイクスこそが、姉を惨殺した犯人なのですね。
過去にとらわれた人生があまりに悲しいです。
依頼された、少女の殺人事件を捜査検証しながら、やっぱり過去のトラウマと対峙していくグレーヴスの物語として、とても読み応えがありました。
そしてエレナーの存在。今までグレーヴスにはなかった彼女のような存在が、今後彼を癒してくれるのを望んで止みません。ラストにぐっと来ました。
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