エレクトラ―中上健次の生涯/高山 文彦

4163696806エレクトラ―中上健次の生涯
高山 文彦
文藝春秋 2007-11

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被差別部落出身の中上健次が、文学にふれ文学を目指し、激しくもがき苦しむように、身を削り魂をすり減らすようにして作品を書き続け、やがては芥川賞を取るまで、そして自身の文学スタイルを確立させ故郷のことをルポルタージュにまとめたり、あるいは「熊野大学」を作ったり、開放同盟の運動に参加したり、精力的に活動した後、命を終えるまでの生涯が書かれた作品です。
その出自にまつわるくらい影の部分、一族たちの声なき声、先祖たちの怨念すべてを一人背負って、小説に書こうとします。しかし、それを文字にするまでの苦労は並大抵ではなく、作家とはこうも苦しみながら、作品を世に送り出すものかと思います。まさに「産みの苦しみ」と言うべきか・・。
人が何かを成し遂げる時、そこには必ず「出会い」がある。健次の場合編集者たちとの濃密なやりとりがあったればこそ、この「岬」での芥川賞受賞になったということがわかります。ここに描かれる編集者、鈴木孝一氏との真剣そのもののやりとりは凄まじいまでの気迫です。
タイトルの「エレクトラ」にまつわるエピソードは読むだけでも痛々しいのだけど、こう言う「痛み」がなければ傑作は出来ないのかもしれないし、あえて健次を傷つけた鈴木氏の態度にも感服するのです。
鈴木氏だけでなく、その後担当を引き継いだ高橋一清氏にしても、また、妻で作家の紀和鏡氏なども健次の作品に深い洞察と理解を示し的確なアドバイスをしていて、いつしか健次は「岬」と言う小説で芥川賞を取るのです。
「天皇制の昏い歴史の底に吹きだまりあえぎつづけた死者たちをもふくめた声に耳を澄まし、文字を読めず書けなかったためになにひとつこの世に残せなかったそれら死者たちの声に「おまえが書け、おまえが語れ」と呪文のように耳元にささやかれながら山を歩くとき、草の上に行き倒れて死んでいったおびただしい巡礼者や行路病者の屍を幻視し、『その死骸がいま一人の私の姿であっても不思議ではない』(引用)と健次は思う。(本文抜粋)」
私は中上健次と言う作家は殆ど知らないも同然で、作品も後年のものを一つ読んだぐらいなのですが、被差別部落の出身であると言うことを隠さず、そこによって立ち、なおかつアイデンティティとして作家となった健次の気迫が本書から感じられ、圧倒されるのです。作家になるには文章力だけではなく、その背景や背負ったものの大きさが大事で、そして人の胸を打つことが出来るのかもしれないと思いました。
彼の人生が終わるとき、本書によるだけの短い付き合いなのに、とても感慨深くなります。ふるさとの開放同盟のメンバーでもある弟同然の楠本秀一氏や永井隆氏が、健次を失った二人の嘆き、あるいはそれまでの編集者や意思であり幼馴染の日比氏や奥さんのかすみさんの喪失感が伝わり、胸衝かれる思いでした。
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「少年A」14歳の肖像/高山文彦

4101304327「少年A」14歳の肖像 (新潮文庫)
高山 文彦
新潮社 2001-10

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日々新しく残忍で衝撃的な事件ばかりに埋め尽くされているいま、この事件はもう遠い過去のものになってしまった印象を受けます。それでも当時の衝撃は忘れられるものではなく、断片的にではあっても、しっかりと記憶に留まっていることもたくさんあります。本書を読むうちに色々と思い出し、そうだったそうだったと、いまさらながらに恐ろしい事件であったことを再確認しました。
今からもう10年以上も前になる1997年の5月、事件は発生しました。世間は震撼しマスコミは世間をあおり、情報に惑わされああでもない、こうでもないとテレビのコメンテーターたちは言い、もっともらしい憶測も飛び交い・・・。そしてついに逮捕されたのは、被害者淳君の同級生の兄である中学2年生の「少年A」。その時の驚きは・・・今はもうこれまた遠い過去のもの。事件から一年、著者が訪れた犯行現場や関連した場所はなんと観光名所になっていて、ツアーを組んで見学に来た人々にたくさん遭遇したそう。なんとも悪趣味な・・・(と思う一方で、こう言う本を読む自分はどう違うんだろう?とも思う)。
淳君が行方不明になって恐らく無事ではないのではないかと思われていたときには、もうすでに、近隣の人々は彼がやったのではという疑いを持っていたということです。それどころか淳君よりも前に被害に合った山下彩花ちゃんの事件の後もすでに、見当が付く人には分かっていたとのこと。
そうなると、淳君の事件は防ぎようが合ったのかもしれません。とても残念です。
本書を読み少年Aの生い立ちに触れ、彼が大きな苦しみを心に持っていたことは理解出来そうな気がしますが、子どもを育てると言うことは、人間を育てると言うことで、子を育てる親は決して生半な気持ちで子育てをしてはいけない、と思いました。親の責任と言うことがヒシヒシと伝わってきて、自分のことを思ってもいまさらながらに反省を促されてしまいました。



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インターセックス/帚木蓬生

インターセックス
インターセックス帚木 蓬生

集英社 2008-08
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エンブリオ (上) (集英社文庫) エンブリオ (下) (集英社文庫) 受精 (角川文庫) エンブリオ 男でも女でもない性・完全版―インターセックス(半陰陽)を生きる


エンブリオ」の続編と言える作品。
前回斬新な医療方法を精力的に展開していた岸川の、悪魔的な部分はなりを潜め、赴任してきた性差医療の専門医、秋野翔子とともに、インターセックスに対して新しい視野での医療活動を繰り広げようとしている。
男でもなく、女でもない、あるいは男であり女でもあるインターセックスは、自分の意思のないころに性別を決められ、外的手術をされてしまうことが多いらしい。しかも、その手術はとても辛いもので、一度では終わらず何度も繰り返され、多くの医師達の視線にさらされ、治療そのものがトラウマになってしまうというのです。そんなインターセックスを取り巻く環境を描いていることがひとつ、読み応えのある部分。彼らが幼いころから受けてきた仕打ちや苦しみを本人たちの語りを含めて訴えているが、涙をさそうほどに辛いもので、そこから立ち直っていく人々の強さにも感動するのです。献身的に、彼らに寄り添い彼らの助けになろうとする翔子は、帚木作品はこうでなくては!と思わせられるヒューマニズムの持ち主。
物語の主軸がタイトルの通り、このインターセックスという部分になってしまっているので、その点においてはとても読み応えがあり感動的なのですが、かたや前回主役の岸川に関しては、拍子抜けしてしまうのです。アクがなくなり、すっかり翔子のよき理解者に成り下がってしまっている。この言い方は矛盾があるけど、前作からの流れで思うとかなり物足りません。
「エンブリオ」で岸川が犯した罪はあまりにもあっさりと片付いてしまうし、例の斬新かつ悪魔的な治療方法に関しては、著者帚木さんはどう思っているのかが分からない。読者にゆだねられているのかもしれませんが、帚木さんの考えを聞きたかったようにも思います。それと、(翔子がなぜ隠しているのかもわからない。告白すれば相手の励みになったことを自分だけ黙っているのが納得できませんでした。)
その点でスッキリしない読後感が残りました。
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紀元前1万年

B001BWTVUQ紀元前1万年 特別版
クリフ・カーティス, カミーラ・ベル, スティーブン・ストレイト, ローランド・エメリッヒ
ワーナー・ホーム・ビデオ 2008-09-10

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さすがエメリッヒとしか言いようがない見事な映像。CGはここまで進化しているのかと思います。まさに本物のようなマンモス、サーベルタイガー、トリの恐竜、生き生きと動くそれらのすごさにしばし見とれてしまいました。
ストーリーはまぁ大したことはなく、部族でそれほど勇敢でもない主人公が、部族や彼女のために頑張って男らしく成長する物語。なんか、時代考証も無視しているようだし、真面目に見るのはやめたほうが良いという評判ですが、映像は見る価値ありました。
充分楽しめました。
11:12 : [映画タイトル]か行トラックバック(0)  コメント(0)

シューテム・アップ

B001DJ902Qシューテム・アップ
クライヴ・オーウェン, モニカ・ベルッチ, ポール・ジアマッティ, マイケル・デイヴィス
ワーナー・ホーム・ビデオ 2008-10-08

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辣腕のスナイパーがすごい大仕事をする話、だと勝手に思い込んでいたので、蓋を開けたらビックリでした。いっそギャグかコメディか、と言う内容の凄まじい物語。だれがこんな話を考えたんだろう?無駄にたくさんの人が殺されますが、それがもう、不快感はなくただ割り切って楽しめる作品。
主役のクライヴ・オーエンはアクの強い俳優だけどこの役はカッコよかったなぁ。次から次へわらわらと沸いてくる追っ手を、撃っては殺し撃っては殺し・・・・・ありえな~~~い!!ことの連続でひたすら口をあんぐり開けて見入ってしまいましたよ。
生まれたての赤ちゃんをあんな風に振り回したら死んじゃう、とか、あのオシメはないだろうとか、そりゃもうツッコミどころ満載。
なにも深く考えず、気軽に楽しみたい作品。
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NEXT

B001CEIK64NEXT
ニコラス・ケイジ, ジュリアン・ムーア, ジェシカ・ビール, トーマス・クレッチマン, リー・タマホリ
ギャガ・コミュニケーションズ 2008-10-03

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2分先の予測が出来る特殊能力を持つ男、それが主人公のクリス・ジョンソン。人に自分の能力を知られる事のないように、しかし、その能力を利用して、マジックショーをしたりカジノで小さく稼いだりして日常をやり過ごす毎日。そんな彼の元にあるときFBIがやってくる(のが見える)。核爆弾がアメリカに持ち込まれたらしいので、探せと言う依頼を受ける(のが見える)。面倒には関わりたくないし、自分の能力以上のことを要求されるので、とりあえず逃げる。しかし、結局おいつめられ、協力することになるのだった。

どこまでが、クリスの見た未来なのか、本当の出来事なのか分からない。それが面白いのだけどいろんな矛盾もあって(見えているのが2分よりも先じゃないかとか)、FBIがクリスに目をつけるのもどうかと思うし、ツッコミどころが満載なんだけど、あんまり深く考えずに目の前に差し出された映像を追うと、案外楽しめます。私は結構好き。面白かった。そもそも、2分先が見えるという、良いのか悪いのか良く分からない特殊能力なのに、主人公はそれを上手く使っているし、カジノでの追いかけっこなんかは充分面白いです。懐かしいピーター・フォークが登場するのも嬉しい。
ネットの評判が悪く、期待しないで見たから、って言うのもあるかもしれません。そこそこ楽しめてラッキーでした。
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フィクサー

B001B9CMPAフィクサー
シドニー・ポラック, ジョージ・クルーニー, トム・ウィルキンソン, ティルダ・スウィントン, トニー・ギルロイ
東宝 2008-09-26

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辣腕の「フィクサー(揉み消し屋)」が活躍する映画と思って見たら、全然違いました。主人公のマイケル・クレイトンは、辣腕ぶりなんて全然見せない、最初から顧客に信用されなかったり、借金の返済に四苦八苦したりと、情けない姿丸出し。
同じ法律事務所で働く同僚が、ある巨大企業の訴訟問題を抱えていて、裁判で裸になったとか事務所や企業の意向に従わずに、原告団に寄り添ってみたりと、話がちょっと混乱しました。
しかし、見所は後半に待っていました。フラッシュバックの終わるシーンになり、やっと「そういうことか」と納得します。それからが見もの。
ジョージ・クルーニーの熱演が光ります。対する企業側の秘書、ティルダ・スウィントンとの対決シーンは見応え充分。前半のモヤモヤを一気に晴らしてくれました。
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ゴーン・ベイビー・ゴーン

B001BO8HH2ゴーン・ベイビー・ゴーン
ケイシー・アフレック, ミシェル・モナハン, モーガン・フリーマン, エド・ハリス, ベン・アフレック
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント 2008-09-17

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ベン・アフレックが監督、弟のケイシー・アフレックが主演のサスペンス映画。
幼児誘拐の事件で依頼を受けた町のしがない探偵業の二人、パトリックとアンジー。それまでテレビで見ていた事件は、実際にその母親に会ってみると、母親はドラッグ中毒で遊び好き、子どもが誘拐された時間帯にも、バーでコカインを使っていたと言うことが分かる。母親にはBFがおり、その線で探っていくと意外な事実が見えてくるのだった。

サスペンスとしては面白い作品でした。子どもを捜す探偵でありながら、なんとなく冷めてて熱い気持ちが感じられないクールなパトリックを、ケイシー・アフレックは好演。脇を固めるエド・ハリスやモーガン・フリーマンという豪華キャストも見応えあり。ボストンの下町で、荒廃感のあるロケ地での撮影が映画の雰囲気をよりいっそう引き立ててます。事件と場所との雰囲気がピッタリでした。

意外なラストは、もやもやが残るのだけど、それが却って良かったです。
何が正義で何が正しいのか、考えさせられてしまう。。すごく印象に残るラストでした。原作タイトルが胸に迫る作品。
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ラスト、コーション

B001AG6CWIラスト、コーション
トニー・レオン, タン・ウェイ, ワン・リーホン, アン・リー
Victor Entertainment,Inc.(V)(D) 2008-09-16

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話題の映画で期待しすぎたのか、自分的には可もなく不可もなく。
戦時下の中国と言うものが、見事に再現されている(ように感じられる)雰囲気や、アジア独特の湿っぽい映像美など見所はたくさんあり、全編飽きずに見られるのですが・・・。
大胆な性描写は却ってエロティシズムから遠のいていて、どっちかというと戦いに近い「肉体のぶつかり合い」と言う感じに見えました。それよりも、そこに至るまでの二人の目配せや、きわどい会話に艶かしく淫靡なものを感じました。ヒロインの可愛さと妖艶さと併せ持つ雰囲気は、男のサディズムを喚起させるかもしれません。
抗日運動の大学生グループが近付いた、親日派の大物。彼らは当初、その大物であるイー(トニー・レオン)暗殺の目的で、チアチーをスパイにしたて近付きます。彼らの了見と覚悟が甘いものだと言う事が次第にわかってくる前半、グループの甘さの中でひとりだけ「体を張って」真剣にその立場を全うしようとするチアチーの覚悟が痛々しかったです。結局抗日と言いながら、前半後半あわせて、彼らが何を成し遂げたのか?それがイマイチ不明でした。
敵対する立場を超えて肉欲と純愛の狭間で揺れる二人の男女、と言う恋愛ものとすれば面白いと思うけど、スパイモノを期待して見たらちょっと違うものかもしれません。
(よく似た感じだけど圧倒的に好きなのは「ブラックブック」面白かったです)
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ブラックサイト

B001C4YBYOブラックサイト
ダイアン・レイン, ビリー・バーク, コリン・ハンクス, グレゴリー・ホブリット
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2008-09-24

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サイバー捜査官のジェニファー(ダイアン・レイン)は、フィッシングサイトなどをいとも容易く摘発する。相棒は頼りになるグリフィン(コリン・ハンクス)。あるとき、ライブ映像でネコの虐待を見せるサイト「キル・ウィズ・ミー・ドットコム」を見つける。IPアドレスもサーバーも特定できず焦れる間に、ネコではなく人間が標的にされていた。

久しぶりに面白いミステリーでした。
ネットのサイトで人間が死ぬのをライブで流している、アクセス数が増えるほどにアップされている人物の死は近付くと言う、その設定がすごく恐ろしい。観るなと言われれば観たくなるという、人間のサガを見せ付けています。猟奇連続殺人事件に発展するその事件は、グロさも申し分なし。登場人物たちも、犯人に近付く有能さ、誠意や熱意も伝わり捜査側の人間には好感が持て、逆に犯人はどこまでも憎くなるのも、観ていて楽な部分。素直に「怖い!」「でも、面白い!」と思って、真剣に見入ってしまった。好みといえばタイヘン好みの作品です。

★★★★☆

ダイアンレインの役どころ、ちょっとジョディー・フォスターっぽいなぁと思います。
共演のコリン・ハンクスはトム・ハンクスの息子だって。言われるまで気付かず。
もう一人の共演、ビリー・バークは、絶対にトミー・リー・ジョーンズの息子だと思いましたが
全然違うみたい(^_^;)似てませんか?
ちょっとカッコイイFBI捜査官でしたよ。注目しようっと♪
ビリー・バーク


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黒い看護婦/森 功

4104721018黒い看護婦
森 功
新潮社 2004-11-25

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久しぶりの事件モノ、ノンフィクションのご紹介。

福岡で看護婦(この事件が起きた時は、看護婦と呼んでいたので今回そのまま引用します)たち4人が、メンバーの中の夫2人を殺害し保険金をせしめたり、あるいは詐欺・恐喝による金銭搾取など、総計で約2億円もの大金を不当に得た連続殺人・詐欺などの事件。

女4人の犯罪というと「OUT」(桐野夏生)を思い出す人も多いと思いますが、事実は小説よりも奇なりというか恐ろしいものだと痛感する事件です。
この事件では主犯格の吉田純子が他の3人を隷属する形で支配し、言葉巧みに騙し続け、自分の贅沢な暮らしのためにお金を奪い続けただけではなく、やがてはメンバーの夫を保険金目当てで殺害、その上にも土地を奪おうとしたりメンバーの母親を殺そうとしたりしたもの。
こうしてまとめたものを後から俯瞰で眺めるように読めば、そんな嘘に何故引っかかるのだろう、と、むしろやすやすと騙されている3人のメンバーの愚かさに目が行くのです。
中のひとりは吉田の同性愛の対象にされ、嫌々ながらも性行為を続けていたのだけど、吉田が「あんたの子どもを妊娠した。珍しい事だが女同士でも子どもが出来る例はあるらしい。」というと、半信半疑でありながらも、結局はそれを信じてしまうのです。女同士の性行為で妊娠…どう考えてもそれを信じる看護婦がいるとは思えないのですが。
そんな調子で騙され続け、挙句の果てには自分の夫にさえ手をかける・・・その保険金をも吉田に騙し取られてしまって、気づかないと言う愚かしさ。
このような事件史を読むと、思い起こされるのは「愛犬家連続殺人事件」の主犯、関根元や「北九州一家監禁殺人事件」の松永太など。彼らに共通するのは、仲間や被害者の気持ちを掌握する手腕に長けていて、とうてい信じられないような嘘をさも本当のように信じ込ませる技術があるということ。
どの事件も、共犯者たちはある種の被害者でもあると思えるのですが(だからと言って殺人の罪は消えないと思うけど)その共犯者をがんじがらめに絡めとる恐ろしさ、従いたくないのに従わざるを得ない心理になっていく、仲間内での恐怖政治が確かにあるようなのです。
「殺人」と一言に言いますが、こう言う風に事件の一部始終を見せられると、その恐ろしさに慄然とします。看護婦の知識やスキルを駆使して、注射などで殺すのですが、自分がもしもその立場に立ったとき、どんな憎い相手であれ、衝動的ではなく計画的にそれを実行できるものか?「この注射を打つと相手は死ぬのだ」と、分かっているのに、ゆっくりと冷静に、注射できるのか??
まさに、尋常ではない彼女たちの心理が怖くてたまりません。稀に見る鬼女の犯罪でしょう。
本書では事件の全容とともに、吉田淳子の生い立ちからその事件との関わりに迫るのですが、一概には言えないにしても、母親の子どもに対する影響と言うのは大きいなぁと痛感します。親はやはり、責任の一端を担っていると言うことは、あるのじゃないでしょうか。
ただ、吉田淳子の家族に対して、「そこまで書いては家族が気の毒では」と言う、誹謗中傷すれすれの表現がある様な気がして、その点が気になりましたが・・・。

思うに、3人のメンバーはアサガオのようなもの。吉田が支柱です。支柱があるから上に伸びるアサガオ、アサガオが巻きつくから賑やかに咲く花を身にまとう支柱。お互いがあったからこその犯罪だったのかもしれません。アサガオと言ってはキレイすぎますか。その花はどす黒い色をしていましょう。
3人のメンバーたちも、この吉田淳子と出会っていなければ、こんな罪を犯さずに平穏な人生を歩いていたのかもしれない。殺された男たちも同様に、その「出会い」に殺されたのです。(犯人たちを擁護する意味ではありません、念のため)
そういう「出会い」がなく一生を過ごすと言う事は、まったくの僥倖だと思いました。

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黒の紋様―警視庁指紋捜査官レポート/塚本 宇兵

4103053313黒の紋様―警視庁指紋捜査官レポート
塚本 宇兵
新潮社 2007-08

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著者の塚本氏は「指紋」のエキスパートです。
「万人不同」「終生不変」この二大特製を生かして犯人を検挙する。それはすでに一般常識にまでなっていますが(たとえば自分がもしも罪を犯し、その罪を隠蔽しようとするならば、現場に指紋を残してはいけないと言うのは最低限の必須条件でしょう)血にまみれ、荒らされた現場から、あるいは腐敗し、ウジのわく死体からも指紋を取ると言う作業を、現場でどのように苦労しながら行っているのかが描かれていて迫力があります。著者が同僚といっしょに指紋採取の方法を試行錯誤の上に獲得していく過程も書かれていて、興味深かったです。
ただ、事件そのものへの深い追求はされていないので、事件の背景や犯人の深層に迫ってはおらず、その点は不満が残りますが、本書はひたすら指紋を採取すると言う職人技によって犯人検挙に至ると言う、その過程が醍醐味になるでしょう。



4101299714「指紋の神様」の事件簿 (新潮文庫)
塚本 宇兵
新潮社 2006-10

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4569627196指紋は語る―“指紋の神様”と呼ばれた男の事件簿
塚本 宇兵
PHP研究所 2003-05

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最後の大奥 天璋院篤姫と和宮/鈴木 由紀子

434498062X最後の大奥天璋院篤姫と和宮 (幻冬舎新書 す 2-1)
鈴木 由紀子
幻冬舎 2007-11

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歴代将軍の正室は殆どが宮家や摂津から迎えられていた。なのに、篤姫は周知の通り島津家という外様藩からの輿入れでした。なぜ島津藩なのか、というと、それにはやはり何年も何代もかけて築いてきた両者の関わりがあったからなのです。それは将軍吉宗の時代にまでさかのぼり、将軍家から島津に嫁いで来た竹姫という人の存在がとても大きかったようなのです。この竹姫の存在があったから篤姫が将軍の正室になると言う、不思議なご縁に発展したとのこと。竹姫と言う人は、篤姫に劣らず大きな働きを負った人物であったようで、ここに描かれている竹姫の姿がすごく興味深いのです。後に描かれる篤姫の姿もそうなのですが、竹姫にしても婚家の発展を一心に望み、尽力しています。その私欲を越えた「縁の下の力持ち」的な存在は、同じおんなとして深く感銘を受けます。なぜ島津から篤姫という遠縁のお姫様が将軍家に嫁いだのか、そのように時代を掘り下げて丁寧に説明されているのが前半です。
後半は、「やっとのこと」で将軍正室になった篤姫の孤軍奮闘の日々、そして、和宮との軋轢の日々を経て二人の女性が「徳川家」のために「同士」となっていく過程に読み応えがあります。何かと「京都流」に拘ろうとする和宮と、根っからの武家の女篤姫は最初のうちこそ敵対にも似た立場になってしまいますが、将軍家茂の深い愛情に和宮が応えるように、篤姫との間柄も和らいでいき、最後には深い信頼で結ばれたようです。間に立つ立場と言うのは辛いもので、どこの家でも嫁姑の間に立つ男性と言うのは苦労されると思うのだけど、この家茂は見事に二人のかすがいとなったことが良く分かります。さぞかし立派な男性であり、包容力のある夫であったのかなと思います。
また、篤姫のよき理解者として登場する勝海舟の姿にも、とても好感を覚えます。海舟語録というものがあるのだそうで、それも興味を引かれます。海舟の本もなんか読んでみようと思いました。
明治維新という、想像もできないほどの激動の時代を、まさにその渦中で生きた二人の女性の人生とはいったいどんなものであったのか、思うほどに頭が下がります。二人が晩年、暖かい交流を持ちながら生きたと言う事は、少しなりともホッとさせてくれます。和宮32年と言うあまりにも短い人生、篤姫にしてもたった49年の生涯。時代の流れに翻弄されたふたりの短い生涯にとても感慨深いものを感じました。

くままさんにお借りしました。ありがとうございました。

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パトリオット

B00005LMIMパトリオット コレクターズ・エディション
メル・ギブソン, ヒース・レジャー, ジョエリー・リチャードソン, ローランド・エメリヒ
ソニー・ピクチャーズエンタテイメント 2001-02-23

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監督:ローランド・エメリヒ
出演:メル・ギブソン
    ヒース・レジャー
   
アメリカの独立戦争を舞台にしたアクション大作です。面白かった!!!
かつては名を馳せた名将だったという主人公のベンジャミン(メル・ギブソン)は、今ではなぜか穏健派。戦争には反対の立場です。息子の従軍にも良い顔をしないし、ひたすら身を縮めての生活。
ところが、ある事件がきっかけで、本性を出す・・・本来の勇猛なベンジャミンに戻り、家族のため息子のために立ち上がるのです。それはとりもなおさず祖国のためでもあるのでした。

上手い事に、イギリス軍が徹底的に悪く描かれている。この手の映画では勧善懲悪的に「善」か「悪」かがはっきりとしていると、大変感情移入しやすくなり、ぐっと面白くなります。
最初は平和主義者の主人公ベンジャミン、家の近くで交戦し怪我をした兵士を敵味方の区別なく家に迎えて丁寧に介抱するのです。なのにそんなベンジャミンの気持ちを踏みにじるように、イギリス軍は包帯を巻いたばかりのアメリカ兵を、ベンジャミンたちの目の前で撃ち殺し、挙句の果てにベンジャミンの二男さえも目の前で惨殺します。追い討ちをかけるように、長男ガブリエル(ヒース・レジャー)も捕虜として拘束、連れ去られてしまったベンジャミンは、怒りに身を任せて行動を起こします。まだ幼い三男・四男に銃を握らせ、ガブリエルの奪還に向かうのです。
このシーンがまずは最初の見所でしょうか。後にゆうれいにやられたと、イギリス兵の生き残りが言うのですが、姿の見えないとても強い何者かが、たった一人で部隊一つを殲滅させてしまうのです。実際には、ベンジャミンの二人の息子たちの見事な射撃も強い味方なのですが。幼いながらも的確に的を撃つ子ども達と、あくまでも非情に徹し、息子を奪い返す・・・そして失われた息子のあだを討つ父親の執念がすごく逞しく力強く、カッコイイ場面です。全身血塗れになりながら何度もチェロキーの斧を振り下ろすその姿は、鬼気迫り、実際には「残酷」なのだけど、この場合まったく恐ろしさを感じませんでした。ひたすらイギリス兵に対する恨みが勝つのです。
そしてその後、どうしても戦場に行くというガブリエルを守るため、そして、家族を守るために自分が戦わねばならないと決意します。
民兵のリーダーとしてプライドの高いイギリス軍を翻弄し、各地の戦いで次々と戦果を挙げるベンジャミンの快進撃はまったく胸がすくよう。彼の根底にあるのは、愛するものたちを守りたいという思いだけ。その大きな強い包容力は、理想の父親像と映りました。
戦争なので、勝つときもあれば負けるときもあり、死ぬ人間もいてそのたびに悲しい気持ちも味わいますが、全編ドキドキハラハラさせられ、ときには家族の結びつきに涙し、兵士同士の友情にホロリとさせられ、飽きることなくハマりました。

★★★★☆



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ウォンテッド

監督: ティムール・ベクマンベトフ
出演:アンジェリーナ・ジョリー
  ジェームズ・マカヴォイ
  モーガン・フリーマン

誰しも自分が、実は全然思っても見なかった素性や能力の持ち主で、あるとき突然に才能が開花したり、遺産が転がり込んだりして、それまでの自分はまったくの「偽り」で、本当の自分はもっともっと素晴らしい人間なのだった・・・・なーんて、夢想する事があるんじゃないだろうか?
この映画はまさにそんな作品でした。まるで冴えないダメ男が、あるとき突然世紀の美女からスカウトされて、実はとても優秀な殺し屋の子供なのだと打ち明けられる。ダメダメ男が鍛えに鍛えられて、どんどんと逞しくなっていく主人公。自分に嫌気が差していた主人公にしてみれば願ったり叶ったりの大変身、と言うわけです。
そして、古代から続く暗殺組織「フラニティ」の王位継承者として、彼に課せられた使命は、あるスナイパーを暗殺する事。それは、自分の父親を殺した暗殺者なのですが。しかし・・・。
・・・・ともかく斬新な映像が見応えある作品。これでもか!と、繰り広げられる激しいアクションシーンの連続。すごい迫力です。
が、私には斬新過ぎてついてゆけず、途中で意識を失ってしまいました。あまりにも目まぐるしく動く画面に、振り落とされてしまいました。内容的にも、組織の存在意義がイマイチ理解できなかったし・・。
ともかく、ヒトをヒトと思わず、クルマやビルの一部のように破壊して殺してもなんの呵責もない内容には、正直引いてしまいました。
一緒に見た夫はとても面白かったと言っていたので、見る人間によってかなりの差があるのでは。
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エンブリオ/帚木蓬生

4087478734エンブリオ (上) (集英社文庫)
帚木 蓬生
集英社 2005-10-20

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4087478742エンブリオ (下) (集英社文庫)
帚木 蓬生
集英社 2005-10-20

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ものすごくセンセーショナルな内容です。倫理的にはとうてい受け入れかねる設定なのに、作品中でいかにも「当然」のように行われているその医療行為は、実は「正しい医療行為」なのだと、錯覚しそうになります。主人公の医師が「営利優先」ではなく「患者優先」の医療を行っている事からもなおさらです。ある意味ではとてもヒューマニストなのです。そういう意味も込めて、久坂部羊の「廃用身」に通じるものを感じました。
「エンブリオ」とは子宮のなかにいる胎児のこと。
本書の主人公である岸川医師のもとには不妊で悩む夫婦や、密かに堕胎手術を受けたい女性などが集まります。彼らから絶対的な信頼を受けている岸川は、腕にも相当な自信のあるサンビーチ病院の院長。そこで行われいているのは、実は常軌を逸した医療行為なのです。
たとえば、(以下、ネタバレ含みます。)のぞまれぬ妊娠をして堕胎手術を受けた後の胎児は、病院で凍結保存、必要になれば臓器を培養増殖させて本人の(この場合、母体)臓器移植に使うことができる。
あるいは、死亡した若い女性の遺体からは卵巣を取り出して保存、培養。それは後に不妊治療のために使う。一見すれば「合理的」「無駄のない」「無駄にしない」医療行為なのかも知れません。しかしよくよく考えてみれば、どこか感覚が狂っているようにも思うのです。
それが明らかに「それは変だ」と思うケースでは、故意に妊娠・中絶し、胎児の脳みそを父親の脳に移植する。パーキンソン病の有効な治療の一環として。。。。
そして極めつけは、男性の妊娠。。。
それらを岸川はひそかに隠れてやっているのではなく、大々的に日本で宣伝こそしないけれど、海外の学会では発表するなど、決して悪びれる事はなく法に触れないということからも、倫理的人道的にも問題のない医療行為だとしているのです。
小説としては、岸川の女癖の悪さや相手の女優の舞台の描写など、あまりストーリーに関係ないと思われるシーンが多く、ミステリーなのかそうでないのか中途半端でもあり、その分散漫冗長になってしまったような印象があったけど(そういう部分を斜め読みしてしまう)ものすごく大きな問題を抱えた恐ろしい小説だと思いました。
たとえば将来病気になるかもしれないことを懸念して、わざと妊娠し、その子を中絶し、いざと言う時のために冷凍保存しておく。あるいは子供が病気で危ない時、移植しか助かる道はないというとき、妊娠中の二男を中絶し、その臓器を長男のために使う・・・。それらは実際に今後起こりうる事態なのではないでしょうか。
結局他人の臓器を移植したところで、拒否反応などの避けられないリスクがあるのでしょうが、この方法だとそういうリスクは極めて少ないわけです。
それが人智を超えているとか、神の領域であり人が踏み込むことは許されない医療行為だとか、言うのは簡単ですが、人間は自分が助かるためにはどこまでも貪欲になる生き物なのかもしれません。そして後戻りの出来ない生き物でもある。
ある意味では、非情に「命」を救うことに熱心な岸川ですが、その実は命を命と思わない冷徹で非情な人間なのです。
いつかこの岸川に天誅が下る事をのぞみつつ、釈然としない気持ちで読み終えました。
続編と言われる「インターセックス」も読むのが楽しみです。


4087753867インターセックス
帚木 蓬生
集英社 2008-08

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告白/湊かなえ

4575236284告白
湊 かなえ
双葉社 2008-08-05

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近頃たいへん評判の良いミステリーで、図書館に予約するもかなりの人数が予約していて、書店やネット書店でもすぐに入手できないほどの人気高騰の一冊です。
ネッ友さんが貸してくださり思ったよりも早く読むことが出来ました。(感謝です)
噂に違わず面白かった!
物語は、自分の娘を亡くした女教師が生徒たちを前に、自分の娘は事故ではなく故意に殺されたのだ、そしてその犯人はこのクラスの中にいるのだ、と言うセンセーショナルな「告白」をする場面から始まります。自分の人生を語りながら、いかに娘が大事な存在であったか、娘をなくしてどれほど自分が辛い思いをしているのかを絡めながら、犯人に対する「復讐」を「告白」するのです。
突拍子もないといえば言えるかもしれないし、リアリティに欠けるといえばそうなのかもしれない。でも、この作品はものすごい吸引力とパワーを持っていて、読む人間を物語の中に引きずり込みます。読み始めたら止まりません。
女性教師の告白だけではなく、事件に関係した人間が次々登場して、あるものは「文芸誌への投稿」で、あるものは「日記」で、あるものは「回想」で…それぞれの形で、「事件への思い」やそれぞれの立場から見た「事件の真相」を「告白」するのです。
第一章で女性教師の口から語られた事件は、物語が進み、語る人間の別によって次第に形を変えられ、まだ見ぬ真実があらわになり、意外な方向に展開してゆきます。
そんなことが実際にあるものなのか、人がそうなったとき、どんな行動を起こすのか、自分だったらどうするのか…などなど、そんなことはどうでもいい、こちらの「思い」など挟む余地も必要もない、だた物語を「読む」だけで「面白い」と言う、近頃まれにみる傑作でした。タイトルのつけ方もシンプルだけど、内容を言い得ていて妙、そしてプロットもよく練られていて巧妙。
読み終わっても、感慨や感動など、考えさせられるものや残るものはありません。後味も良くない小説です。人によって評価も分かれるでしょうが、私にとっては「面白かった!!」と、心から満足できる作品でした。
ブラヴォー!



10:31 : [本・タイトル]か行トラックバック(2)  コメント(2)

ダーク/桐野夏生

4062115808ダーク
桐野 夏生
講談社 2002-10-29

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「天使に見捨てられた夜」や「顔に降りかかる雨」などの村野ミロシリーズ。
一番の魅力は一切無駄な描写もないタイトでスマートな文章、どの一文もすべてが脳みそに染み込んでくる感じ、そのまま文を追うことが止められず最後まで一気読みさせられる吸引力とパワーです。
自分にはなんの努力も必要じゃない、ただ読んでいればいい、読めば面白いという私にとっては稀有な傑作でした。
シリーズと言っても、前作を読んだのがずいぶん前だったので、ほとんど覚えておらず、ミロを含め登場人物のキャラクターがどんなものだったのかも忘れ去っていました。結果それが良かったのかもしれない。
以前の恋人が、獄中で死んでしまったということに端を発し、ミロは恋人の死を自分に伏せた義父の村野善三を許せず、その命を奪いに北海道まで出向きます。善三はそのころ、北海道で盲目の恋人と一緒に暮らしています。その恋人はミロと同じ年齢なのでした。
善三の命を奪ったミロ、それを許さない善三の内縁妻久恵、かつては仲間であったのに裏切りあう存在になってしまった友部、そして善三の腹心であったはずの鄭。逃げるミロと追うものたちの攻防が息をつかせぬ展開で繰り広げられます。
やがて物語は舞台を韓国に移し、意外な展開になっていくのですが、その破天荒で無軌道な展開にのめりこんでしまうのです。どのキャラクターにも全然好感は持てない。とくに久恵や友部のいやらしいこと。あまりにいやらしすぎて、逆にそれが魅力です。
「救いがない」なんて、全然そんなことはない。「柔らかな頬」「残虐記」などに比べても明らかに救いのある物語です。40になったら死のうと思っていたミロは生きる希望を見つけるし、ミロの求めた愛は、現時点ではたしかに存在するんだから。(続編があるか?できたらここで終わってほしい)
私の中ではマイベスト桐野作品となりました。「OUT」よりも好き。

11:41 : [本・タイトル]た行トラックバック(0)  コメント(0)

T.K.G.

365日たまごかけごはんの本―世界最速スローフード
365日たまごかけごはんの本―世界最速スローフードT.K.G.プロジェクト

読売連合広告社 2007-09
売り上げランキング : 13462

おすすめ平均 star
starちょっとイメージと違ったけど
starシンプルだが奥が深い

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tkg


「T・K・G」ってわかりますか?
T→たまご
K→かけ
G→ごはん
で、「たまごかけごはん」ってことです。
このシンプルな日本の食が、こうして本になっているのです。
私自身は、朝は絶対にご飯にしたい派。ご飯のお供は卵、卵かけご飯です!
納豆や、めかぶなども大好きで、それらを炊き立ての白いご飯にとろーっとかけて食べるのが大好き。これはもう、これ以外は私にはない!と思っております。
しか~~し!この本によると、朝だけじゃなく、晩ご飯のメインにもなりそうなTKGがてんこ盛り。
是非とも見てみて、パン派のひともご飯を見直してみてはいかがですか♪

365日たまごかけごはんの本
18:22 : [本・タイトル]た行トラックバック(0)  コメント(0)

シズコさん/佐野洋子

4103068418シズコさん
佐野 洋子
新潮社 2008-04

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絵本作家でエッセイストの佐野洋子さん。彼女がお母さんとのことを書いた本です。
最初のほうで、もう、涙がダラダラと流れてしまいました。
容赦ないまでに感情むき出しの、文体とかにも気を使ってなさそうな(失礼ですか?)、あふれるような母に対する思いが、ものすごく何と言うか私にびんたを食らわすような。
「私は母を捨てた」と何度も繰り返す著者。
母親を好きになれない、愛せないという自責の念に、ずっと苦しみます。
苦しむというよりは、その自責を決して捨てようとしないで、自ら進んでその枷の中で生きているように感じるのです。
このシズコさん、確かに娘の眼から見ると「良い母親」ではないのかもしれないけど、その娘が書いた「母親像」は、決してダメな母親ではなく、むしろ素晴らしい「母親」なのでは。
関東大震災、戦争、引き上げ、3人の子供を亡くし、若くして夫を亡くし、4人の子供を育て上げ、、、、いつも社交的で、人を暖かく迎え入れ、器用に洋服を縫ったりセーターを編んだり、家の中はいつも見事に整理されていてキレイで、お料理も手早く美味しくきちんとこなす。。。著者自身が言うように、決して誰にでも出来る事じゃない。
しかし、そんな母も娘には愛されない。二人の間には深くて強い確執があったから。親は一時期娘を虐待し、娘は徹底した反抗期に入る。決して二人の間には「和解」はないだろうと思えます。

読みながら何度も泣けるのは、「ひとは老いるのだ」と言うことがしみじみと迫るから。傲慢にさえ見えるシズコさんが、小さな背中を見せるとき・・。従順になり「可愛く」なってしまうとき。それはやっぱり「老い」によってなされたものではないかと思うのです。
決して溶ける事はないと思われた娘の母への気持ちも、皮肉にも母が老いて惚けることで、氷解していく。触ることすら出来なかった母の体を触り、さすり、なで、いとおしむ娘。
なんて長い年月や色んな犠牲が必要だったのか。
あまりにも壮絶な母と娘の記録です。

本書の中ですごく印象的だったのは「家族だからこそ互いによくも悪くも深いくさびを打ってしまうのだろう」と言う部分。あるいは「家族とは、非情な集団である。他人を家族のように知りすぎたら、友人も知人も消滅するだろう」と言う部分。
他人だったら許されないような事も、家族だから許される。許すまいと思っても、いつの間にか許してしまっている。逆に家族だからこそ許せない思いもあるに違いない。
母のことも含め、家族というものをじっと見つめた本でもありました。
著者が繰り返し「母を好きじゃない」と言いながらも、伝わるのは不思議と母への憎しみではなく、愛情なのです。
16:49 : [本・タイトル]さ行トラックバック(0)  コメント(0)

性犯罪被害にあうということ/小林 美佳

4022504218性犯罪被害にあうということ
小林 美佳
朝日新聞出版 2008-04-22

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タイトルの通り、性犯罪にあってしまった著者の、実名と顔写真を公開しての手記です。
彼女は恋人と別れたことを引きずり、泣きながら夜道を自転車で家路についていました。道を聞かれ、答えようとしてクルマに引きずり込まれ・・・。
不幸にもレイプされてしまったときに人はどうなるか、それは想像もできないぐらい壮絶なものでした。数々のトラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、実際に被害者でないとわからない、気楽に「想像できる」とは口が裂けてもいえません。
削除したいのは「記憶」ではなくて「事件」そのもの。でも削除なんて実際には出来ない。時間は戻らない。起きてしまった事はなかったことに出来ないのです。
どんなにか、人は傷つくのか。
加害者側はきっと分からない。すごく気楽な感じでレイプしたのだと思う。この被害者と加害者の気持ちのズレは、どこまでも交わる事はないのでしょう。「悪いことをしたと反省してほしい」「ごめんねと思っていてほしい」・・・繰り返す著者の言葉が胸に響くのです。
娘として一番この人の事を愛しているはずの両親にさえ、彼女の苦しみは理解されず、両者の感情もまたどこまでもズレてしまい、彼女はさらに苦しむ事になってしまいます。肉親による二次被害は悲しいことにとても多いんだそう。
インターネットサイトでの交流やカウンセリングを受けたり、心理カウンセラー育成の専門学校への通学を経て、彼女は「事件被害者を支援する活動がしたい」と思うようになり、片山徒有と言う人に出会います。このひとは、息子さんをダンプカーに轢き逃げされてしまったという事件の被害者でした。この人との出会いで、著者は前向きになっていったようです。
(これがまた涙なくてはおれない事件でした。http://www.ask.ne.jp/~tadkata/js/index.html
一番理解し、愛しているはずの家族に傷つけられ、かたや、見ず知らずの人間に救われとはなんと言う皮肉。しかし、それが案外真実なのではないでしょうか。あまりにも身近であればあるほど、物事を冷静に受け止める事は到底無理で、でも、だからと言って傷つけて良いと言うことは間違ってもないはずで、傷つけたいと思ってるはずもなく守ってあげたい、癒してあげたいと思ってるに違いないのに・・。
人間関係の難しさは、こういうときこそ浮き彫りになるのかもしれません。
彼女は「被害者を救うのは周囲の理解である、理解を得るためには伝え合わなくてはならない」と言います。家族との間に衝突やすれ違いと言う「溝」ができたのも、お互いの気持ちをきちんと伝え合う事ができなかったから。家族の本当の気持ちを知れば、もっと被害者自身も救われるのだと。
伝え合い、理解し合っていくことの大切さ。
被害者がもとめ、被害者を支援するのは周囲の人たちなのだから。
16:47 : [本・タイトル]さ行トラックバック(0)  コメント(0)

二人だけで生きたかった―老夫婦心中事件の周辺

4575296481二人だけで生きたかった―老夫婦心中事件の周辺 (NHKアーカイブス特別編)
NHKスペシャル取材班
双葉社 2004-02

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66歳妻、認知性に冒される。その介護をする夫は77歳。老人ホームへの入所もできず、息子夫婦に引き取られながらも、誰にも黙って死への旅に出ます。ふるさとの近くの温泉地をめぐり、やがて二人が入水自殺をするまでの最後の軌跡を追います。
いまや老人が老人の介護をするという「老々介護」は当たり前の時代、(認知症が認知症を介護する「認々介護」の時代です)この本は、決して他人事ではないのです。
「介護」や「老い」と言う社会問題だけではなく、自分の人生の終焉をどのように迎えなければならないのかという大きな問いかけにも胸をえぐられるようでした。
この本の中の夫は、認知症の妻と共に人生に幕を引きます。自分だったらどうするんだろう?と思ったとき、この夫の大きな愛情に胸打たれてしまうのです。
16:44 : [本・タイトル]は行トラックバック(0)  コメント(0)

アンフィニッシュライフ

B000QUCZPWアンフィニッシュ・ライフ
ロバート・レッドフォード モーガン・フリーマン ジェニファー・ロペス, ラッセ・ハルストレム
ジェネオン エンタテインメント 2007-07-25

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「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」「ギルバート・グレイプ」「ショコラ」「サイダー・ハウス・ルール」などの名作を手がけた監督、ラッセ・ハルストレム監督、ロバート・レッドフォード主演による作品。

恋人の暴力から逃れるために、元夫の父親(娘グリフの祖父)アイガーのもとへ身を寄せる事にしたジーン。
ふたりを迎え入れてくれたアイガーだったが、息子のグリフィンの死がジーンのせいだとして、未だに心を許さない。
ぎすぎすした空気の中で、それでも始まった奇妙な3人の生活は・・・。

+++

ひさしぶりに、好みにドンピシャな映画を見ました。ものすごく好きです。これ。
しみじみとした心地よい感動がストレートに伝わってきて、じわじわと涙が沸いてきてはあふれ出るという感じで、見ている最中も見終えてからもずっとその心地よさの中に身を任せている感覚の映画です。ラッセ監督の映画らしく、それ以上でもそれ以下でもない、だからこそ良い、そのことがものすごく安心感を与えてくれるのです。
広大なワイオミングの風景の中で、実直に暮らす人たちの姿がとても素敵に描かれていて、シーンの一つ一つが美しく好きです。

息子の逆縁の不幸に会ったアイガーの悲しみ、そのことで憎まれ許されないことに苦しむジーン、そしてその娘グリフ、くまに襲われ体の自由を失い、今なお痛みに耐えかねてモルヒネのお世話になるモーガン・フリーマン演じるミッチ、それぞれの心の痛みを優しく描きながら、徐々にゆっくりと癒されていく様は、見ているものも優しさに包んでくれます。

傷を癒すのはやっぱり人との関わりの中でしかないのだ。許す事、許される事、それは人の生活の中でなくてはならない。そのことで人はお互いが豊かに幸せになれるのだと、しみじみと心に沁みる物語でした。
口は悪いながらも積年の友情を育むロバート・レッドフォード、モーガン・フリーマンの枯れた感じがいい味で、特にレッドフォード久しぶりの当たり役(私にとって)。

★★★★★
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