ヒトラーの贋札 悪魔の工房/アドルフ・ブルガー

4022503866ヒトラーの贋札 悪魔の工房
アドルフ・ブルガー 熊河 浩
朝日新聞社 2008-01-11

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アカデミー賞外国映画賞を受賞した同名映画の原作です。
タイトルの通り、ヒトラーは敵国の経済に打撃を与えるために紙幣の贋造を史上最大の規模で行っていました。本書はその贋札作りを強制させられたアドルフ・ブルガーという元印刷技師の回顧録です。
本書のメインテーマは、紙幣贋造の「ベルンハルト作戦」ですが、著者がその計画に加担させられるまでにも、体験させられた地獄---突然ナチスに連行され、アウシュビツに押し込まれ、常に死の隣り合わせの恐怖の中での収容所暮らし---ホロコーストの地獄を、体験談だけではなく、史実も交え、時々刻々と順を追って丁寧になぞっています。
ホロコーストの悲劇は、今までに何度もいろんなところで読んだり見たりしてはいるけれど、改めてその残虐非道さに慄然としてしまいます。まるでゲームのように人を殺す様などは、映画「シンドラーのリスト」にも登場するが、著者はそれをその目で見て、体験してきたのです。
明日は(一瞬先にも)我が身か、という絶望と恐怖の中で、それでもホンのわずかな幸運が重なり生きながらえていく著者の運命(運の強さと言うか)には驚き。本書のなかで一貫しているのは「生への執着」。それは「生きて、ナチスのこの蛮行を世の中に訴えたい」と言う強い気持ちがあったから。
また、本書には当時の囚人たちの写真やイラストが掲載されていて、ものすごいインパクトです。人間、ここまで痩せるものだろうかというほどにガリガリの人たち、彼らはムールゼンと呼ばれたそうですが、一日に1500キロカロリーほどの栄養で10時間以上の重労働、そして意味もなく繰り返される虐待や暴力のはてにそんな姿に。。。写真を見れば言葉を失ってしまうのです。
この本の読み応えある部分は、そのようにホロコーストの体験者による生々しい当時の体験談(ブルガー氏のほかにも生き延びた人たちの体験談が載っています)、中には親衛隊員たちに一矢報いたダンサーの話や、逃亡に成功した囚人たちの話など(こうして逃亡に成功した人たちの告発があってナチスのユダヤ人迫害が世界に知られる事になったのです)、ひとつひとつがたいへん読み応えがあり印象深かったです。
そして、なんといっても贋札造りの模様。
ものすごく細部にこだわり、本物と寸分違わない贋札を作り上げていく過程や、贋札だけではなくパスポートや政府の書類など、ともかくありとあらゆる書類を贋造したそうで、その過程なども読み応えがありました。彼らは徹底的に管理され、命と引き換えに、贋物つくりをさせられたのです。ナチスを憎みながらもナチスに協力をしなければならない、ましてや犯罪に加担させられた著者たちの苦悩と葛藤が痛々しい。
贋札作りに加担させられた囚人たちは、国家機密の一端を担ったわけだから、二度と生きて開放される見込みはなかったのです。でも、うまく生き延びる事ができた。それは僅差だったようです。初めてこの強制収容所のやせこけた囚人たちを見たアメリカ兵たちは、そのあまりの残酷さに絶句したとか。
贋札工房の証拠品一式はオーストリアのトプリッツ湖に今も沈められているらしい。2000年には著者ブルガー氏もそこを訪れ、湖に沈んでいた偽ポンド紙幣などを引き上げたりしています。が、全部ではないらしい。その点は本書を読んでもよく分かりませんでした。今もナチスが隠した財宝や証拠品は各地に眠っているのだそうです。そして驚く事に作戦の主任、ベルンハルト・クリューガーは生き延びた!!

さて、映画になったのは無論贋札造りの様子。
ここで登場するのがロシア系のプロの紙幣贋札職人、サラマン・モスリアノフ。(映画ではサロモン・ソロヴィッチ)非常に腕のいい贋札つくりで、ナチスに協力だろうがなんだろうが、自分のプロ意識のために贋札作りに専念します。作戦主任ベルンハルト・クリューガー(映画ではフリードリヒ・ヘルツォーク)はポンド紙幣の次はドル紙幣を作れと言う。しかし、工房の心意気ある囚人たちは密かにサボタージュを決行します。映画では原作著者のブルガーがその先導者として描かれていたけれど、実際にはアブラハム・ヤコブソンという人物が先頭に立ったと書かれています。彼らの必死の抵抗が、ナチスの敗北に大いに影響したのです。

映画になった部分だけではなく、全編にわたって衝撃の連続で、非常に感慨深い一冊でした。

冷戦の闇を生きたナチス―知られざるナチス逃亡の秘録
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講談社 2006-01-27

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顔なし子/高田 侑

4344013727顔なし子
高田 侑
幻冬舎 2007-08

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東京での生活に見切りをつけて、20年以上離れていた古里へ戻った修司。義理の弟である桐也は、ここ数年音沙汰がないという父の言葉に、修司の思いは忌まわしい事件のあった昭和55年へと馳せる。修司の父親は妻を亡くして喪の明けないうちに、桐也の母親を連れてきたのだ。すべてはそこから始まった。昭和55年に何があったのか。そして、その事件が現代にも禍々しい影を落とす。次々と起こる不審な事件は、過去の事件に関連するのだろうか。

陰湿な寒村を舞台に、泥臭くじめじめと陰気な物語が続くのだけど、なかなか読ませます。55年当時の話は、閉鎖的な村社会でありそうな事件だけに説得力がある。妻の喪が明けないうちに新しい女を連れ帰る父親、その新しい女であるセリ、そして昭和55年の修司・・・修司には気を許す女友達である麻樹と、孤独な少年桐也などのそれぞれの心理描写もていねいに描かれていて釣り込まれます。
排他的で残酷な村人たちにたいして、主人公たちは根底に人を思いやる気持ちを持ってるというのが、この物語の魅力だと思う。じめっとしている割に暗くなりすぎずに読めるのはそのおかげかもしれない。
だんだんとミステリー色が濃くなっていくのは、前回読んだ「鉄槌」とよく似た感じがしました。
ただ、ラストのミステリーのオチはそれほど意外性もなく、平凡な感じで拍子抜けしてしまった。もっと、胸震えるような真実が隠されているのでは??という期待を抱かせられる展開だっただけにちょっと残念。でも中盤が面白かったし、おどろおどろしくもオカルトではないかんじが好みだったので、また次も読んでみたいと思わせられる作家さんです。わたしは割と好きなタイプ。
個人的に言いたいのは「桐也に対して、結婚した事を義理の父親になぜ言わないのか?セリが死んだのは義父のせいだと恨んでいるのだろうか?でもその後も血のつながりのない桐也を育てたのは義父なのだから、せめて結婚した事ぐらいは伝えても良かったのでは」と言う事。
しかし、ああ言うラストはそれはそれで良いとおもうけど。
22:01 : [本・タイトル]か行トラックバック(0)  コメント(0)

コフィン・ダンサー/ジェフリー ディーヴァー

4163195807コフィン・ダンサー
ジェフリー ディーヴァー Jeffery Deaver 池田 真紀子
文藝春秋 2000-10

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ライム・シリーズの2作目です。
今回は、コフィンダンサーと言う異名を持つ殺し屋が登場。実はそいつは、かつてライムの部下を殺した事のある因縁の相手。そしてものすごく周到で、誰もその正体を知るものはないどころか、指紋の一つさえも残したことがない。
そのコフィンダンサーが狙うのはある民間航空機の未亡人(夫は既に殺されてしまった)とその仕事上のパートナー。ライムは彼らを守り抜く事ができるのか??

この本では、今回、コフィンダンサーという殺し屋とライムの頭脳戦がスリリングに描かれていて、気を抜けない。(これは前に読んだのもそうですが)ライムが殺し屋の裏をかけば、また殺し屋もライムの裏をかこうとする、と言うように、どちらの頭の中もどうなってるんだろうと思うほど賢いです。
そして、アメリアとライムの気持ち。これがくっつきそうでくっつかなかったりという、読者をジリジリとじらすもので、その部分も目が離せない。
殺し屋に狙われているパーシーとの三角関係にも似た感じが、かなり面白いです。またこのパーシーが最初はすごく傲慢でワガママで嫌な女!と思っていたんだけど、段々と好感が持ててしまう辺りの人物描写もうまい!面白かったです。

しかし、ライムシリーズにどんでん返しはつき物のようですが、今回はちょっとやり過ぎって言う感じも。「えーそりゃないよ」と思ってしまいました。それじゃぁあの時のあれはなんだったの、みたいな。たとえばケータイのところなんか・・。突っ込みたくなってしまうんですよね。突っ込んだところできっと、完璧に跳ね返されてしまうんだろうけど。そこまではすっごく面白かったのに、ちょっと白けてしまったのが残念。でも、面白い事は確かです。
21:58 : [本・タイトル]か行トラックバック(0)  コメント(0)

死のロングウォーク/スティーブン・キング

4594004539バックマン・ブックス〈4〉死のロングウォーク
沼尻 素子 リチャード・バックマン スティーヴン キング
扶桑社 1989-07

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キングの初期の作品のようです。なんとも暗澹たるロードムービーのような、いや、小説だからロード・ノヴェルとでも言うのでしょうか。近未来、アメリカでは「ロング・ウォーク」というゲームが開催され、全米中を期待と興奮の坩堝に落とします。100人の少年を無差別に集め、ルールに従って銃殺してゆく、最後の一人になるまで逸れは続けられる、歩いている間は眠る事はおろか、立ち止まる事もできず、速度が落ちただけでも警告を与えられ、警告が1時間に3回発せられたら4回目には…。なんとも残酷でショッキングな内容です。読んでいるうちに段々と辛くなってくると同時に、目が離せない物語。結末は予想が付くのですが、予想が裏切られる事を切望して読んでしまった。甘かった。。。

見知らぬ100人の少年たちがロング・ウォークを通じて友情を育み、極限の中でも相手を思う気持ち、あるいは思い出話の中にある少年たちの思春期など、キングらしい爽やかな部分もありますが、いかんせんあまりにも残酷な設定。キングの好きな人にしかすすめられないかも。「バトル・ロワイヤル」はこの小説を元にして作られたに違いないですね。

21:54 : [本・タイトル]さ行トラックバック(0)  コメント(0)