【本】よだかの片想い/島本理生

4087715078よだかの片想い
島本 理生
集英社 2013-04-26

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正直言って、島本理生さんとか綿谷りささんとか、どうもごっちゃになってしまう・・・(^_^;)
おばちゃんがテレビでジャニーズやAKBを見ても、どれも同じに見えるのと似たような感覚なのかな・・と。
すみません(^_^;)
今まで島本さんと綿谷さんを激しく混同していたんだけど、この作品は突出して、胸に迫る物語だった。
ジャニーズやAKBの区別も付かないおばちゃんの私でさえ、胸が締め付けられそうになるほどだった。(←こんなことを言うのもこっ恥ずかしいのだけど、あえてそう言いたいほど良かったのです!)

主人公は顔にアザのある少女アイコ。
小学校のあるときまで、アザは決して彼女の「悩みの種」でも「コンプレックスの元」でもなかった。
彼女にそうさせたのは、他でもない「他人の言葉」だった。
何気なく、おそらく何気なく発した(からかったつもりさえなかったと思う)同級生の言葉に、必要以上に反応した教師のことば。それによって、主人公は自分が他人からどう見えるのか、自分がどういう存在なのかを認識する。
それからの彼女はひたすら下を向くようにして生きているのだ。それがとても痛々しい。でも、そうさせているのは私のような無神経な人間なのだろうと思うと、いたたまれない気持ちになってしまった。
そんな彼女は友達のつてから、本の出版にかかわり、映画監督の飛坂に出会う。
彼に惹かれて行くアイコ。そんなアイコを飛坂もまた愛してくれる。
はかない恋が美しく描かれ、アイコの気持ちがとても切々と迫ってきて、目があちこちで潤んでしまった。
ひとを初めて愛し、そして愛される喜びを知り、愛ゆえに悲しい思いもする。
人はなんという矛盾に満ちた生き物なんだろう・・と思ってしまう。
アイコと飛坂の物語だけではなく、ミュウ先輩や原田君など、登場人物の気持ちがすべていとしく感じられる。
ストーリーとしてはとても単純な筋立てである。
だけど、こんなにも胸に迫る初恋物語を久しぶりに読んだ気がした。
50のオバサンも少女に還ったように胸がときめいて、アイコと同じように一喜一憂し、喜びに胸震わせ悲しみに涙を流した。稀有な本だと思う。
宮沢賢治の「よだかの星」は、私も読んだことがある。有名どころの宮沢作品は、イマイチわけが分からず(^_^;)ちゃんと読んでない(読めなかった)私が、唯一読めたのがこの「よだかの星」だった。
よだかは悲しくて、でも、崇高な存在。
彼女をそんなよだかになぞらえてあるのだと思うが、それがとても良いとおもった。
オススメ!


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【本】ようこそ、わが家へ/池井戸潤

4094088431ようこそ、わが家へ (小学館文庫)
池井戸 潤
小学館 2013-07-05

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内容(「BOOK」データベースより)
真面目なだけが取り柄の会社員・倉田太一は、ある夏の日、駅のホームで割り込み男を注意した。すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。さらに、車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の疑惑を抱いたことから窮地へと追い込まれていく。直木賞作家が“身近に潜む恐怖”を描く文庫オリジナル長編。

【感想】
面白かった!
最初読み始めのトラブルのシーンは、いつもの池井戸作品と言うよりも、奥田英朗か山本甲士か・・って言う感じがしたんだけど、家庭内のことだけではなく、全然違う会社のトラブルも絡めてあり、やっぱり池井戸作品だ!と思った。
ふたつの「事件」というかトラブルは全然違って、つながりがないのだけど、それがちぐはぐな感じがしない。
実際主人公も、会社から帰る電車に乗れば、悩みが自然とシフトするのだ。
テレビでは著者作品原作ドラマ「半沢直樹」が大人気だけど、こちらはあんなふうに「強い」男じゃなく、すごく平凡でどっちかと言うと気が弱いタイプの主人公で、世の中の大半の人間は、半沢直樹よりもこの倉田太一に共感を覚えるのじゃないだろうか?
そんな倉田が、家族を守るため、そして己の正義を貫くために頑張る姿に、清々しい爽快感を覚えるのだと思う。誰もが社会の中では、彼と同じ「名も無きひとりの人間」なのだから。
気が弱くても、マジメな主人公。マジメって、ある意味強さの元だな・・と思う。
ただひたすら爽快なだけではない、ほんの少しほろ苦さを含んだラストも良かった。
オススメ。
またドラマになるのかな(笑)

13:54 : [本・タイトル]や行トラックバック(0)  コメント(0)

【本】友罪/薬丸 岳

4087714934友罪
薬丸 岳
集英社 2013-05-02

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ここ3冊ほどハズレが続いた薬丸さん、諦めずに追いかけ続けて(何と言う無礼な発言、申し訳ないです)本当に良かった!!!と切に思う渾身の作品。本当に面白かった。最後は涙涙に暮れてしまった。

物語は、ジャーナリスト志望の青年、益田の視点で進んでいく。
彼はバイト先の出版社をくびになった後、川崎の寮付きのステンレス加工工場にやってきた。
その工場に、同期入社(バイト)で、寮もいっしょとなる鈴木と言う同年の青年がいたが、彼は人を寄せ付けず孤立している。
が、あることがきっかけで益田に気を許すと、次第にだんだん寮の仲間とも打ち解けていった。
しかし、鈴木にはある「過去」があった。






ここからネタバレです。







鈴木が犯した罪、それは二人の幼児殺しの罪。神戸の酒鬼薔薇事件の少年Aをモデルとしていると思われる。鈴木は少年Aのその後の姿なのだ。
現実でも、酒鬼薔薇事件の少年Aは、更正施設(医療少年院)をとっくに出て、一般社会で暮らしているのだろう。今まで読んできた、少年犯罪のノンフィクションによると、この少年Aのことではないけれど、遺族への賠償などの義務を放棄し、謝罪の言葉もないまま、まさに「のうのうと」暮らし、あまつさえ「なぜ謝らなければならないんだ」などとのたまっていると言う話を読んだことがあり、憤懣やるかたない気持ちになったことがある。

しかし、本書の鈴木は、自分の犯した罪の重さに苦しんでいる。とてもとても苦しんでいる。
その姿は痛々しいほどで、こんなにも苦しんでいるのだから、赦してやって欲しいと思ってしまう。そして、益田に心を開き、寮の仲間たちと打ち解けはじめ、美代子に思いを寄せられる姿を見て、読者として喜びを感じずにいられない。

そんな平穏な幸せは、やはり鈴木の犯した罪の大きさには、ふさわしくないのだろうか。やがて鈴木の正体は世間に暴かれ、同僚たちにも過去が分かってしまう。
自分だったら・・・と思うよりも、ただひたすら、鈴木が哀れに思えてしまった。
益田には、どうか週刊誌に記事を書かないで、鈴木を売るような真似はしないで、と願ったし、また、鈴木の気持ちを踏みにじらないで・・と、切に願った。

鈴木は姿を消してしまう。
そのころには読んでいて涙が止まらなかった。どうにかならないのか、と。
とても悲しかったけれど、益田が書いた手記によって、ひとすじの光を感じることが出来たのが救いだった。
自分が出来ないことを益田に託したい。それはあまりにも手前勝手な理屈だけど、それでも希望を感じたい。

辛い中にも大きな感動があった。オススメ!!!



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【本】腰痛探検家/高野秀行

4087466353腰痛探検家 (集英社文庫)
高野 秀行
集英社 2010-11-19

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酷い腰痛に悩まされている高野さん。
その顛末を綴ったエッセイ。

さすがミャンマーを柳生一族に喩えただけあって、医師と患者の関係を恋人同士に喩えたり、腰痛をUMAに喩えたり、面白く読みました。でもやっぱりいつものUMA探しに比べると小粒な感じがした。劇的に治るわけでなく「これだ!!」という発見もないので、私もちょっとビミョーな感じはしたけど、高野さんの文章ファンなら楽しめる一冊でしょう。
11:15 : [本・タイトル]や行トラックバック(0)  コメント(0)

【本】夜をぶっとばせ /井上荒野

4022509759夜をぶっとばせ
井上荒野
朝日新聞出版 2012-05-18

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内容(「BOOK」データベースより)
どうしたら夫と結婚せずにすんだのだろう。「思い切ったこと」がしたくなったある夜、ネットの掲示板に書き込んだことで、たまきの日々は「何かが決定的に」変わりはじめる―直木賞作家が掬いとる、あかるく不穏な恋愛小説。



↑ という内容紹介文を読んでいまびっくりしている。
「恋愛小説」だったのか!!「不穏」は良いとして「明る」い小説だったのか!!!
私にはそうは思えなかった。
「だれかの木琴」もそうだったけど、こちらも主人公たまきの行動がとても不気味。
だんなのDVに苦しみ、子どもにもそれが影響を与えてて、境遇的にはとても同情を誘うのだけど、初めて買ったPCで、たまきは出会い系サイトにハマっていくのだ。
なんでそういう行動をとる?ってカンジで、ともかくたまきの行動は自己破壊的で理解も共感もできない。
それなのになぜか一気読みする「面白さ」がある。文章も好み。
共感できない人物を描くのがうまいと言う感じがした。
ちなみに「夜をぶっとばせ」というのは、ローリングストーンズの曲名らしい。
「チャカチョンバへの道」は、主人公の夫側の物語。
夫が「その後」では、ごく普通の男のように描かれ、意外な人物と同居している。
そして、たまきの境遇もびっくりするほど変化していた。
良くわからない。何がどうなってるのか。彼女たちがどうしたいのか??
これからみんなどうなるのか・・・。
うーん・・・。
20:07 : [本・タイトル]や行トラックバック(0)  コメント(0)

【本】ユリゴコロ/沼田まほかる

4575237191ユリゴコロ
沼田 まほかる
双葉社 2011-04-02

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少々前に読んだ本。図書館へはすでに返却済み。
読んだときは面白くて一気に読んだんだけど、今内容を思い出しても、あまり良く思いだせない。
「ユリゴコロ」の語源とか、登場する手記の最初のほうは、江戸川乱歩の「赤い部屋」を思い出したとか、そう言うことは覚えているんだけど。
不気味な手記を発見した主人公は、その手記の書き手が自分の母親ではないか、と思い始める。
物語は、手記が語る書き手の人生と、それを読む主人公の生活の二段構え。
全体的に、リアリティがなかったので、面白くて一気読みはしたものの、心に残るものはあまりない。
オチも見えてしまった。
主人公と、その弟とのやりとりが物語りに良い印象を残したと思う。
14:02 : [本・タイトル]や行トラックバック(0)  コメント(0)

【本】闇のダイヤモンド/キャロライン・B. クーニー

4566024288闇のダイヤモンド (海外ミステリーBOX)
キャロライン・B. クーニー Caroline B. Cooney
評論社 2011-03

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この本もすごく面白かったんです!
海外のYA作品とのことで、海外小説が苦手でも、とても読みやすかったです。
「紛争ダイヤモンド」とか最近は呼ばれていますが、シエラレオネのダイヤモンドは「血のダイヤモンド」というべき、忌まわしいもので、レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ブラッドダイヤモンド」にも登場しました。
この本は、舞台をアメリカに。そこで「血のダイヤモンド」をめぐって起きる騒動を描いています。
アメリカの一般家庭を舞台にしているので、映画よりも身近に現実的に感じられる気もしました。
読み終えたときの感動は・・・。
ぜひともおススメしたい。




17歳のジャレッドの家、フィンチ家では、アフリカから来た難民一家を受け入れることになった。
教会の熱心な会員である両親が(というか母親が)決めたのだ。
難民の両親は一部屋に住んでもらうけれど、難民の長男はジャレッドの部屋に、妹のほうはジャレッドの妹モプシーの部屋に居候することになった。
お気楽なモプシーと違いジャレッドは難民一家を快く受け入れることが出来ない。
やってきた難民のアマボ家は、どこか不自然だった。
そして、不必要にびくついているように見える。
その原因は・・・・。


アマボ家の父親アンドレには両手がない。内戦で敵の兵士に両腕を切り落とされたのだ。
マトゥ(アマボの長男)は鉈で切られた傷があるし、妹のアレイクは何らかのショックでものが言えない。
平和に暮らすことが当然のアメリカの子どもたちは、アフリカからやってきた一家の抱えているものの重さに驚く。
逆に、アフリカからやってきたマトゥはアメリカのいわゆる平和ボケのような生活に驚く。
モプシーが、「宿題はサイテー」というようなことを言うが、マトゥには「宿題が最低の日常とはなんと素晴らしいのか」と思う。
両者の隔たりが興味深いし、痛々しいと思う。

この物語はやっぱり、口が利けなくなったアマボ家の妹アレイクの物語かもしれない。
彼女がどんなひどい目に合ってきたか。
そして、いまの家族からどれだけ孤立しているのか。
涙も出ないほどの辛い思いが切ないのだ。
結果、口が利けないだけではなくまるで「生ける屍」のようになってしまっているのだ。
そんなアレイクの心を溶かしていくのはモプシーの天真爛漫さ。
妹のモプシーが、ジャレッドはうっとおしくて仕方がないのだけれど、読んでいくうちに、私はモプシーが大好きになって行った。明るくて思いやりがあって親身になれる女の子。
アレイクの心に届かないわけはない。

実は、この一家はダイヤモンドを持ち込んだ。
そのダイヤモンドは「血のダイヤモンド」だ。今は「紛争ダイヤモンド」と別名を取ることで、表現を和らげているらしい。
紛争ダイヤモンドとはシエラレオネなど内戦地域で産出されるダイヤモンドをはじめとした宝石類のうち、紛争当事者の資金源となっているもののこと。
そのダイヤモンドをめぐって、アマボ家に追跡者が登場する。
それがとんでもなく恐ろしい人物だ。アメリカの平和な家庭に育ったジャレッドやモプシーには想像も及ばないのだ。
そのためアマボ一家だけではなく、フィンチ一家にも魔の手が迫る
そのサスペンスもドキドキで息をつかせない。
ここで最後まで言わないけれど、最後は泣けた。

これがYAで、中高生対象で大人の目にとまりにくいとしたらもったいない。
中高生ももちろん、大人も充分読み応えある作品と思う。
おススメ。


16:41 : [本・タイトル]や行トラックバック(0)  コメント(0)

【本】世にも奇妙なマラソン大会/高野秀行

4860112148世にも奇妙なマラソン大会
高野 秀行
本の雑誌社 2011-02-02

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深夜の思いつきで、サハラ砂漠の真ん中で行われるマラソン大会に出ることになってしまった高野氏。
聞いただけでも過酷なマラソンに出たいきさつと、そのときのレポートを相変わらず面白おかしく紹介する、表題「世にも奇妙なマラソン大会」。このほかゲイのおじさんに奉仕される「ブルガリアの岩と薔薇」。
インド入国のために戸籍名を変えようと涙ぐましい努力の「名前変更物語」。
旅先でであった「謎のペルシャ商人」、(このときは「読んだことある五木寛之のペルシャ絨毯の小説!」と私も嬉しくなってしまったのだけど・・・)など、相変わらずすっとぼけた感じが面白い高野本。
対人のエピソードが特に良い。
でも、オカルティックな話はピンと来なかったなー。高野さんにはあんまりそう言うこと言ってもらいたくない気が・・。
しかし、個人的にウモッカに期待している。ウモッカ見つけてくれないかなー。
10:52 : [本・タイトル]や行トラックバック(0)  コメント(0)

【本】夜行観覧車/湊かなえ

4575236942夜行観覧車
湊 かなえ
双葉社 2010-06-02

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高台にある高級住宅街、ひばりが丘。
遠藤真弓は、ひばりが丘で一番小さい家に住む主婦である。毎日のように娘、彩花の家庭内暴力に苦しんでいる。そんなあるとき、向かいの家、高橋家から異様な声が聞こえてきた。高橋家の娘は、彩花の希望した私立中学に通う娘や、アイドルタレントに似た息子を持ち、真弓の羨望の的であるエリート一家。その高橋家で一体何があったのか??

ムダに長いと言うと失礼だけど、前半はかなりだらだらとしていたと思うけど、やっぱり一気読みするだけ面白かったです。
向かいの家で異様な物音や、叫び声が聞こえたらどうするか?その家の玄関に駆け寄って何があったかちゃんと聞けますか?それがただの家庭内のケンカで、玄関にばつが悪そうに出てきたその家人に「いえいえ何でもないんです」とごまかされたり、あるいは「人の家の事情に口出ししないで」などと言われたりするかも知れない。ソウ思うと、アクションを起こすのがためらわれたりしませんか?
真弓はそんな風に、向かいの家から聞こえる、切羽詰った声を無視することにするのだけど、全編通じて人が腹の中で何を思っているのか・・ということをねっとりと描いたような作品でした。
そんなイヤな中身で、登場人物の誰にも共感がもてないどころか、誰も彼もが嫌いという・・・。
それなのに、読了した時点では、そのイヤな感じが消えていると言う不思議な読後感です。
素敵な結末で、イヤな感じを吹き飛ばした・・・って言うのとは全然違うのですが、スッキリしない結末なんだけど、それでも何故かイヤーな感じが半減していると言う感じ。

殺人事件なんて屁でもないぐらいイヤだったのが、遠藤家の彩花。
学校で辛い思いをしていて、それが親の責任だとしても、あの態度はないでしょうよ。
読むほどに、本当に腹が立ちました。
彩花をいじめるクラスのリーダーみたいな子も腹立たしいし、彩花に毅然とした態度を取れない真弓や父親にもムカムカさせられた。ラメポも好感の持てないキャラだし。ともかくいやな人物ばっかりだったなぁ。

ほんと、殺人事件がどうでもいいと思えるぐらいでした。

けこたんさんにお借りしました。ありがとうございました!

20:41 : [本・タイトル]や行トラックバック(3)  コメント(2)

【本】優しいおとな/桐野夏生

4120041506優しいおとな
桐野 夏生
中央公論新社 2010-09

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家族をもたず、信じることを知らない少年イオンの孤独な魂はどこへ行くのか―。(「BOOK」データベースより)

舞台は近未来でしょうか?
貧富の格差がかなり大きくなっているようで、公園にはホームレスたちがあふれ、炊き出しにも大勢が列を成して集まる。そしてアンダーグラウンドと呼ばれる地下を牛耳る一派も暗躍して、東京は魔の街になってしまっているようです。
イオンはそんな東京の片隅で生きている15歳ぐらいのホームレスの少年。
どこで生まれて、親は誰なのかも知らない。
世の中には「優しいおとな」と「優しくないおとな」と、「どっちつかずのおとな」の3種類がいる・・・と教えてくれたのは、鉄と銅という、ふたごの兄弟。
幼い頃に一緒に育った鉄と銅を探して地下にもぐったイオンでしたが、生気を奪われるように闇に飲まれていく。
イオンは鉄と銅に会えるのか・・・。

最初は、イオンの心理描写に、いつものような著者独特の臨場感が感じられず、どことなく違和感を感じてしまっていました。いったいイオンは何がしたいのか?どうなりたいと思っているのかとか・・具体的なことが分からず、ただ命さえも危ういほどのホームレス中学生みたいな生活が延々と描かれているだけ・・。
モガミという、イオンに唯一親身に接する大人が登場しますが、イオンはモガミにも心を開かないところなどもイライラさせられました。そしてモガミの正体はナンだろう?やっぱり少しの引っ掛かりがあってどうにも読みにくさを感じていました。
近未来と言う設定(それとも、パラレルワールドのような、別の日本が舞台なのか?)もなんだかしっくり来ないなぁ・・・ホームレス同士の勢力争いもイマイチのめり込めないな~・・・などなど、結構不満気に読んでいましたが、イオンがアンダーグラウンドに潜ってから段々と面白くなってきた!
桐野さんといえば、破滅に向かう人生(だけどそこに爽快感がある)を描かせたら右に出るものなし。
今回も、イオンが破滅に向かって進んで行きます。
実は、そこにいつものような爽快感はなかったけど、代わりに、イオンを心配する気持ちが初めて芽生えてきて、物語に共感し始めたような気がしました。
登場した最初から、イオンはすでに底辺の生活を送っていたのに、そのまだ下にある暮らし。人はどこまで落ちぶれるのか・・これでもか、これでもかと言う、たった約15歳の少年に課せられた、過酷な人生。
ひとはどん底まで落ちたときに、何かをつかむのかもしれません。
読後感は、いつもの桐野作品とは違う味わいがあります。桐野さんらしくないとも言えるかも。
でも、私は好き。
読み始めとは打って変わって、心に残る物語となりました。



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